2015年9月16日水曜日

サウンド オブ サレント vol.3

ココラ渓谷は、サレントのハイライトと言える。
言えるのだけど、実のところボゴタで聞かされるまで、僕はまったくその存在を知らなかった。どうやら最近のツーリストの間では、その渓谷が人気らしい。それは、どちらかといえば知らない僕の方が恥ずかしい、そんな感じだった。

「ていうか、そもそもココラって何?」

という疑問は誰に聞くにも聞ず。いつもの様にのこのこサレントまでやって来てしまったのだけど、果たしてどうしものかと思案する必要は微塵もなかった。町には渓谷へと導く案内板が完備され、ソカロ周辺にはしかるべきツアーを行うエージェントが、やたらひしめいていたのである。どうやらココラ渓谷とは、世界一高いといわれる椰子の木が自生している渓谷のことらしい。


というわけで、サレントに来た2大目的のひとつ(もうひとつはトルーチャという魚を食べること)であるその渓谷へ足を延ばすことにした。落ち着いた雰囲気の町で日々ゆったりとしていると、何をするわけでもなく、時間が足音も立てず足早に過ぎ去っててしまう。

町から渓谷へは結構な距離があった。歩いていける距離ではないので、大抵はソカロから出発するジープに乗るか、ツアー会社の日帰りツアーに参加するということになる。でも僕にはオートバイがある。その必要もない。
宿のオーナーであるフェルナンドに尋ねると、道は一本だから問題ないという。本当かな?ラテンの人々の問題ないはえてして問題があったりするのだけど、現に小川沿いの田舎道が町から渓谷へと延びているだけで、迷いようはなかった。

入口に到着したら適当な場所にバイクを止めて、渓谷を歩いて周った。フェルナンドが渡してくれた簡易的な地図には、渓谷をぐるりと周れるトレッキングルートが載っていて、それをなぞって歩くのが、正しいココラ渓谷の楽しみ方らしかった。

やたら背の高い椰子の木(コロンビアの国樹らしい)が、地表からにょきにょきと生える光景は、なんとも不思議だ。アメリカのレッドウッド国立公園で見た巨木ほどの衝撃はないものの、まるで自分が絵本の世界に迷い込んだような気分にさせてくれる。なるほどこれなら観光客が増えるのもうなづける。などど勝手な解釈をしながら歩いていると、ルートはそこから山へと入っていった。

まぁたいした道でもないだろうと高をくくったのだけど、実際それは結構な山道で、時折雨までぱらつくし、ガスで視界は奪われるし、さらに沢沿いの道はぬかるんで歩きにくいったらない。なんてネガティブな面もあったのだけど、のんびりたっぷり4時間。やはり自然の中を歩くのは気持ちがいい。

世界一高いといわれる椰子の木。

高いものでは50mにもなるらしい。実はつけない。
 
結構本格的なトレッキングルート。

さらに面白かったのは、ひょんなことから相棒ができてしまったことだ。あまり天気の良くない平日とあり、すれ違う人はまばらだったのだけど、なぜか道中で一匹の犬と出会ってしまった。ふと気づくと、僕の少し前を同じ方向に歩いていた。一見して野良犬ではないことはわかったのだけど、こんな山中に飼い犬がいるのも珍しい。

犬の進むスピードは、僕よりも早かった。さっさと行ってしまうので、やがて姿が見えなくなる。だけど、驚いたことにしばらく進んだ場所に立ち止まっている。一定の距離まで近づくと、また歩き始める。まるで僕を待っているかのようだ。そんな馬鹿な。そう思ったのだけど、何度もそんなことが起きた。やがて疲れたからとひらけた場所で小休止を取ると、道の先に消えた犬はなんと引き返してきて、僕を確認できる場所に腰を落ち着けた。


「そうかそうか。じゃぁ一緒に歩こうか」

時間にして1時間ほどだろうか。最終的に、山の出口まで一緒に歩いた。
ふと、このままずっとついて来たらどうしよう。なんて勝手な心配をしてしまったのだけど、犬はどうやら僕よりも利口だったらしい。一軒の農家の前まで来るとするりと門を抜け、少し高い場所から僕を見送ってくれた。自分の役目を果たしたとばかりに少し誇らしげに見えた。僕はひとこと礼を言い、なんだか満たされた気分で町へとバイクを走らせることができた。

つづく。