乾燥した気候のためか、昼間には25度にもなるこのあたりも朝晩は結構冷えます。寝起きですぐにネックウォーマーがほしくなるくらい。そして今日も天気がいいです。空には雲というものが存在しないかのようで、いったいこのあたりで雨が降る日はあるのだろうかと思ってしまいますが、それでもバイクで旅をする僕としては晴れてくれるにこしたことはなく、なのでそんな思いもどこか他人事だったりします。
テントをたたんで出発。遠くに赤く荒涼とした山々が見えてきたと思ったら、それがザイオンナショナルパークでした。12ドルの入園料でチケットを手に入れ向かうはインフォメーション。まずはザイオンとはなんたるかを知らなければなりません。園内の地図をもらい、いくつかの情報を仕入れ、ベンチに座って作戦会議。なるほどザイオンナショナルパークとは、コロラド高原の隆起とそこを流れる河川によってナバホ・サンドストーン(砂岩)が侵食されたできた渓谷であるらしいです。ナバホ?
アイアン ライオン ザイオン
絵を書く人。
が、絵になる。
ザイオンはもともと予定になかった場所なので、まぁ1日見れればいいかな?と思っていました。しかしというか、やはりというか、その見ごたえは僕の予想をはるかに超えていて、予定なんて手のひらを返すがのごとくあっさり変更になりました。気の遠くなるような歳月によって侵食された渓谷を、それになぞるように見て周ることができるのです。数百メートルの断崖が、両脇からまるで襲い掛かるかのようなのです。えてして渓谷といえば上から眺めるものですが、ここは一番下からそれを見上げることができるのです。
しかも季節はずれの今はマイカー規制が解除されている(4月から10月までは園内を走るシャトルバスに乗らなければならない)ようで、自分のバイクで時間を気にすることなく自由に走り周れるというのもうれしいじゃありませんか。どうせ12ドルのチケットは7日間有効(その間は出入り自由)なのです。ただ通り過ぎるだけではもったいないのです。
そうと決まれば本腰をいれて観光です。ジャケットを脱ぎ、バイクにつんでいる荷物をほどき、サブバッグをとり出すと、そこに地図と水とカメラをつめ込んで、トレッキングルート(公園内には大小実にたくさんのルートがある)を2本歩きました。
木々はちょうど紅葉で、そそり立つ岩肌の赤と重なり、青空とのコントラストが素晴らしく、流れる川の水は穏やかです。そんな圧巻の大自然をのんびり歩くのだから気持ちがいいに決まっています。その谷間をバイクで走り抜けるだけでも最高の気分なのですから。
ザイオン渓谷。大自然。
迫り来る岩山。
もはや走る車は小さすぎて見えない。
のんびりトレッキング。
紅葉がまたよかった。
岩のトンネル。わくわくする。
彫刻のような岩肌。
圧巻。
翌日はみじかいトレイルの2本ほどやっつけて昼には出発しようと思っていたのですが、1本終わったところであまりにも短くて物足りず、結局ロングトレイルを歩くことにしました。地図を見るかぎりでは山の頂上に出るようだったので、それならきっと景色も最高だろうと思ったのです。せっかくのザイオン。そうそう訪れることもできませんからやれるだけやってみようということで。そうと決まれば早速準備です。昼食用にサンドイッチをつくり、バナナと紅茶と地図とカメラをバッグに詰め込んだら、靴紐を固く結んで出発です。
岩肌に取り付くようなのぼりから、谷間を縫うように徐々に高度を上げ、平坦な道をつないで頂上を目指します。日が高くなるにつれ陽射しが肌を刺し、きつい登りでは何度か休憩しないと汗が吹き出るほどでした。それでも景色のよさに助けられ、2時間ほどで頂上に到着です。
そこはまさに断崖絶壁の頂上で、僕なんかは足が勝手にすくんでしまいました。そしてあまりにも絶景です。感嘆の声が自然と口から漏れます。そんな頂上でランチをし、ゆっくり休憩して下山。駐車場に到着したとき時計の針は14時を少し周っていました。約4時間のトレイルは運動不足の体にはこたえるものでしたが、結果欲張ってよかったと思います。
登る。登る。空に向かって。
絶景。
くつろぐ その1。
くつろぐ その2。
その後は渓谷沿いの終点テンプル・オブ・シナワヴァまでバイクを走らせ、川沿いのトレイルで少し休憩し、ぞろぞろとカメラ片手にあるく日本人ツアー客を遠目で眺め、垂直の壁に挑むクライマーたちに度肝を抜かれ、そしてやっぱり後ろ髪を引かれながらザイオンナショナルパークを後にしました。
日本人はみんなカメラ好き。
ただの岩山。
ですが、この中にクライマーが。
中央下部のクラックにとりついているのがわかりますか?
なんてこった!
ザイオンを後にし、赤ちゃけた山々の峠道が消えるとまたしても広大な乾燥地帯に突入しました。9号線から89号線へ乗り換えれば、道はグレンキャニオンナショナルレクリエーションパークを抜け、モニュメントバレーへと近づきます。そこはグランドサークルツアーの東の折り返し地点です。
明日にはきっと(やっと)到着できるな…。
今日も地平線まで星が光る夜空を眺めながら、何もない大地で1日を終えるのでした。
つづく。