2015年11月17日火曜日

サウンド オブ サレント vol.4

サレントで、ひとりの日本人と出会った。サレントに到着して2日目のことだった。
その日は朝から小雨がぱらつくあいにくの空模様で、サレントでメインの観光としていたココラ渓谷へはまた改めてかな?なんて、宿で暇を持て余していた。オーナーのフェルナンドに声をかけられたのは、そんなときだった。

「すぐ近くに日本人がいるんだ。ちょっと一緒に行こう」

なぜ僕をその日本人に会わせようと思ったのかは分からなかったけど、客は僕のほかに誰か居るのだろうか?そんなことを考えてしまうほど静かな午前中だったから、宿のオーナーといえど(僕と同じく)退屈していたのかもしれない。

連れていかれたのは、宿からほど近い土産物屋だった。店内はエスニックな雑貨が整然と陳列されていて、鮮明な色彩をふんだんに使っていながらも、どこか落ち着いた雰囲気が感じられた。ラテンの感覚とは明らか一線を画している。ジュンペイさんは、そんな店のオーナーだった。


それからというもの、サレントを出る日まで、僕はすっかりジュンペイさんのお世話になってしまった。町の中をいろいろ案内され、町の外れにある見晴らしのいい場所に連れていってもらい、ジュンペイさんの自宅にまで招かれた。そこでふるまわれた手料理は驚きの日本食で、その時に飲んだ手作り豆腐の味噌汁は忘れられない。
サレントに住んでもう8年になるというジュンペイさんは、なかなかの人気者だった。町を歩けばたくさんの人に声をかけられる。顔が広い。おかげで僕までサレントに住む様々な人と交流することができた。
 
町は山に囲まれている。

トゥロンボで遊ぶ子ども。日本のコマとほぼ同じ。

やらせてもらったけど、僕はうまく回せなかった。

 サレントでの2大目的の一つトルーチャ(マスの一種)。
アヒージョで。とてもおいしかった。

だいたい午後になると、近場のカフェで一緒にコーヒーを飲んだ。それは毎日のことであるらしく、店に入ればいつものように、いつもの人々が集まってきた。その輪の中にはコロンビア人も居れば、他の国からサレントに移り住んだ人も居て、皆この土地でゆったりとした生活を楽しんでいるようだった。会話は早口なスペイン語なので話の半分も理解できないのだけど、僕に話しかけてくるときにはだれもが簡単な言葉を選んでくれるので、ありがたかった。

毎日午後のころ合いを見て、いつものカフェまで歩き(といっても宿から30秒ほどだ)、コーヒーを飲み、とりとめのないおしゃべりを楽しむ。そんなことがたまらなく楽しかった。旅をしていればいろんな町に滞在するのだけど、町の人たちとこういった時間をすごすことは多くないように思う。
数日もすると、顔見知りになった人たちと町で会えば、気軽に挨拶を交わすようになった。それは、すごく気分のいいものだった。僕は、なんだかすっかりこの町の住人になった気分だった。小さな町だけど、サレントには旅人を優しく迎えてくれるだけの包容力があった。

夕照の中央広場。

知らない場所から知らない場所へ。旅はそんなふわふわとした非日常の連続だから、とりわけなにげない日常的な行為に新しい気づきを見つけられるのかもしれない。

おわり。