船の上で朝食を済ませたら海でひと泳ぎ。残りの乗客がすべて乗船し終えると、出航に向けてのミーティングが始まった。デッキのテーブルを囲む乗客は全部で15人ほどだ。ぐるりと見渡せばなんとも多国籍な顔ぶれで、一見しただけではその出身国が分からない。
ミーティングは当然のように英語で進められた。僕は、いかにも分かった風な顔でそこに座っていたけれど、もちろん話しの半分も分からない。分かったのはキャプテンがドイツ人だということと、ビールは1本1ドルで買うことが出来るということだった。
まあそれだけ分かれば問題ない。別に取って食われるわけでもなし。常識の範囲で収まっていればいいだけだ。
出航に向けてパナマ出国の手続きをしなければならない。しかしそれさえクルーが行ってくれた。僕は手続きに必要な書類を渡すのみ。全員の出国手続きが終わるまで、真っ青な海に飛び込んで、ビールを飲んで、ごろりと日向ぼっこをしていればいいだけだった。
旅の準備段階から今まで何もかもすべて自分で行ってきた体は、他人に任せていればすべてが済んでしまうことにむずがゆさを感じてしまう。後ろめたさの影が心に落ちる。だけど今の僕はそれを優雅という言葉にすり替え、デッキに寝転がり、残りのビールを味わった。
出発の朝。
船内。突き当たり下段が僕のベッド。
優雅な朝食。
そして船は動き出す。
チェコ人のバイク乗りオンドリューと。
愛車はしばらくお休み。
全員の出国手続きが完了すると、船はゆっくりと碇を上げた。低いエンジン音が心地よく響き渡り、カルティ港が視界からゆっくりと遠ざかる。セイルボートではあるが、風がなく、帆を広げずにエンジンの動力で船は次の島へ向かった。快晴とまではいかないまでも天候はまずまずだ。滑らかに撫でる潮風は久しぶり感覚で、やはり船旅は旅情をくすぐる何かがある。
約2時間の航海の後、船は再び碇を下ろした。僕らの目の前には透き通る海に浮かんだ小さな島があった。椰子の木が天に向かって生えている。それだけだ。それ以外になにも見つけられない。一見して無人島であることがわかる。
「カリブの海に浮かぶ小さな無人島」
あなたがそう聞いて思い浮かべるイメージが正解だ。それをそのまま現にした、まるで絵に描いたような島だった。
ココ・バンデロ。
一帯の無人島群はそう呼ばれているらしい。昔はそうではなかったが、クナの人々が生活の糧に椰子の木を植え、そのために楽園のような景観になった。
そして僕らはここで2晩を過ごす。やることは、何もない。島をぐるりと歩いても2分とかからない。海で泳き、ビールを飲んで、日向ぼっこを楽しみ、多国籍な乗客とふれあい、陽が西の空に紅く浮かんだらバーベキューをして、たらふく酒を飲んだ。
暑さに火照った体を冷やすには海が一番。
無人島でBBQ。
遠くに難破船。
焚き火の炎が落ち着いてきた頃。せっかくシャワーを浴びたというのに、酔っ払いたちは次々と海に飛びこんでいった。僕もご多分に漏れず、淡い月明かりに照らされた海に誘われた。浮かぶ星を見上げながら、溶けるように浮遊するのは最高の気分だった。
つづく。
優雅、確かに!海きれい!
返信削除今、朝飯食って二度寝を決め込んでるその姿も大変優雅!
それより何回も聞いてるけど今日のラザニアは何時からか教えて欲しいっす。おーい起きて!
優雅という言葉の魔力にすっかり骨抜きです。
返信削除いつも朝飯最後に食うねーさんもすてきに優雅ですよ!w