2011年1月2日日曜日

モーターサイクルは大陸の夢を見るか? vol.3

朝には冬を。昼には夏を。
いちにちの、それもたった数時間で味わった僕。東の空に浮かぶ雲が紅に染まり連なる山々の尾根から朝日が顔を出すと、広大な砂漠地帯で気持ちの良い朝を迎えるのでした。

あの太陽の出た山並みをこえれば、そこがデスバレーつまりは死の谷とよばれる場所です。アメリカに数あるナショナルパークの中でもその面積は最大で、さらには最も乾燥している死の谷。夏季はその暑さのために閉鎖するキャンプ場もあるとかないとか。

気持ちのいい朝。あの山を超えれば。

今日はそのデスバレーに向けて走ります。帯状にひろがる山が近づき、やがてそこへ入ると道は九十九折りになりました。しかしデスバレーとはよくいったもので、乾燥しきった一帯は本当に死の谷というにふさわしい感じです。赤ちゃけた山と、背の低い木ともよべない植物以外、何も見つけることができません。そんな景色の中を標高差3000フィートを登り、降り、砂漠地帯を抜け、また登り、また降りる途中で、ひとつめのキャンプ場をみつけました。

休憩のつもりで立ち寄ったキャンプ場ですが、なんとそこはフリーの(つまりは無料の)サイトでした。本来もっと先にあるキャンプ場にテントを張ろうと思っていたのですが、そこは18ドルもします。逡巡することもなく僕はテントを設営しました。さすがにフリーなだけあって設備と呼べるようなものはありませんが、ピットトイレと水道がひとつだけあります。しかしそれで十分。それ以上は望みません。なんといってもさえぎるもののないデスバレーがそこから望めるのですから。

デスバレーの中をひた走る。また山越えだ。

今日の寝床。なにもない、がある。

テントを張り終わってもまだ12時。空は雲ひとつない快晴で、太陽はたかい位置からギラギラと容赦ありません。キャンプ場周辺は見渡すかぎりなにもありませんが、13kmほどすすんだ場所に売店があり、まだまだ時間はたっぷりあることだし、観光がてら空荷のバイクで走り出しました。

まずは園内をのんびり2時間ほどループで走ります。砂丘が波打つ砂漠があったり、マッドキャニオンと呼ばれる奇妙な小山があったり、途中老夫婦に手招きで呼び止められ、ごつい双眼鏡で一緒に鹿を観察したり。ひとしきりデスバレーを満喫し、売店で冷えたビールを2本買ってキャンプ場へ戻っても、夕暮れにはまだ少し時間がありました。

ベンチにすわり日本から持ってきた本を読みながらビールをあけます。空は夜を急ぐかのように明るさを失っていきますが、同時にきれいな夕焼けも届けてくれます。

なんて理想的な1日の使い方なのだろう?

キャンプ場の住人はひとり、またひとりと好きなペースで夕食を楽しみ、空に星が浮かぶ頃、静かにテントに入っていきます。僕もそれに倣い寝袋にもぐりこみましたが、テントの入り口は開け放して満天の星空を眺めました。今日もいい日だった、単純にそう思えることが幸せなのかもしれません。

谷に向かってまっすぐにのびる道。目指すはビールだ!笑

海抜0m地点。最低地点は-86m。

黒い小山がマッドキャニオン。白い場所は砂丘。
それにしても広大。

これでもかといわんばかりに容赦ない太陽。

ほら、あそこにいるよ!
親切にも双眼鏡をかしてくれたご夫婦。

ぼちぼちディナータイム。ゆったりした時が流れる。

翌朝テントをたたみ、8時にキャンプ場を後にしました。出口付近にテントを張っていたご夫婦から手を振ってもらうと、たったそれだけで今日もいい日だと思えてしまいます。道すがらまだ見ていないポイントを見つつ、大音量のハーレー軍団にピースサインをもらいつつ、東へ抜ける190号線は思ったほどの峠ではなく、すんなり公園を後にしました。

自然の造形はいつも不思議だ。

メインの(18ドルの)キャンプ場。
これをキャンピングカーと呼んでいいものだろうか?

その後は頼りない看板を頼りに、地図では番号さえふられていない田舎道を通ってラスベガスを目指しました。途中カリフォルニア州からネバダ州へと、定規で一思いに引いたような実にアメリカ大陸らしい州境をまたぎましたが、そこにはなんの看板さえなく、ただアスファルトに「NEVADA」の文字が。たったそれだけ。なんとものどかでいい感じです。フリーウェイなんかに乗って移動していたらこの感覚は味わえません。

ここからネバダ。なにもない。だれもいない。

手持ちの食材がほとんどなかったので食料とワインを買い込み、この日はラスベガスまで行かずその手前でキャンプにしました。目の前にある小さな山に登るとラスベガスの摩天楼を一望できましたが、それは砂漠の中に突如として現れ、まるで切り絵でも見ているような、どこか無機質な印象を受けました。

夕食に野菜炒めを食べ、ワインを飲み、一眠りした23時。寒さをしのんで外に出ると、遠くにラスベガスの夜景がまるで暗闇に立ち向かう戦士のようにオレンジの炎を燃やしていました。それはあまりに明るく、おかげで空にある星達も身を潜めるほどです。あの煌びやかな炎の中で、いったいどれだけの人がどんな思いでいるのだろう。ひとり遠く離れた場所からそれを眺めていると、人間というのは不思議な生き物だなと思わずにはいられないのでした。

砂漠の中に突如として現れた欲望の街ラスベガス。

星をもかき消すオレンジの炎。燃え尽きることはない。

さて、明日はラスベガスを抜け、グランドキャニオンナショナルパークへと向かう予定。
だったのですが…。

つづく。

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