2011年3月1日火曜日

モーターサイクルは大陸の夢を見るか? vol.6

ザイオンナショナルパークで予期せぬカウンターパンチを喰らい、かなりのダメージを受けてしまった僕。これはちょっと勝ち目がない(誰に?)んじゃないかと思いつつも、次なる目的地モニュメントバレーへとのこのこと向かってしまうのでした。


寒い朝。バイクにすべての荷物をのせ東に向かって走り出すと、あっという間に指先が凍えました。こりゃまずいと思いグローブの下にニットの手袋を増強し、首筋から冷気が浸入するのを防ぐためにネックウォーマーをあごまで引っ張りあげても、吐く息が真っ白になる気温の中で走るにはそれも焼け石に水。奥歯をガチガチならしながらの走行となりました。

10時を過ぎてやっと暖かくなってきた頃、ユタ州からアリゾナ州へ、そしてグレンキャニオンダムへと到着です。そこにはコロラド川と、巨大なダムと、それによってできた大きなパウエル湖があり、休憩するにはもってこい。ダムの施設内でトイレをかり、冷え切った体を温めます。見渡す大きなダムは湖の深い青と大地の赤との対比が実に印象的なのでした。

ユタ州を抜ける。抜けるような空。

おおきなダム。湖と大地の色合いがいい。

ダムから少し走ったペイジの町で食料の買い出し。モニュメントバレーでは2泊くらいしようと思っているのでそれなりに食料が必要です。買い物をすませて再出発をすると、店の横に荷物満載のマウンテンバイクを発見しました。
お?あれは?
それはどこからどうみても長期旅行者のそれで、最近とみに旅人を見かけていなかった(西海岸を走っていたときはしばしば見かることができた)僕は、そんなことでちょっとした元気をもらうのでした。よし。僕も頑張ろう。

町を後にしたなら陽が落ちる前に到着するべくひたすら走ります。暗くなってからテントを設営するよりも明るいうちに到着したほうが楽だし、なによりモニュメントバレーでは朝夕の焼ける太陽とビュート(残丘)がつくり出すシーンがこのうえなく神秘的だと聞いたからです。よく晴れた今日ならきっとさぞかしすてきなことでしょう。

荒野の一本道を約5時間。東へ東へ。このあたりになるとナバホ族の末裔かインディアンがたくさんです。濃い肌にはくっきりと皺が刻みこまれ、深い瞳。屈託のない笑顔には白人よりも親近感を覚えます。そして一直線にのびる道のはるか遠くから彫刻のような岩山が見えてきて、そこが彼らナバホ族の聖地モニュメントバレーでした。

一本道の先に現れた聖地。

がんばった甲斐もあり、太陽が色を変える前になんとか到着することができました。よしよし。じゃぁまずはシャワーだろ。そう思ったのですがそのキャンプ場にはシャワーはおろか、なんと水さえありませんでした。あるのはゴミ箱と仮設トイレとテーブル、ベンチが数個のみ。あとはひたすら平らにならした茶褐色の地面だけ。

あれ?こんなキャンプ場だっけ?

事前に調べた情報ではもうちょっと設備の整った(もちろんシャワーもある)キャンプ場のはずですが、どうやらそれは古い情報だったのかもしれません。残念。しかし旅をしているとこんなことは茶飯事なのです。慣れっこなのです。特にインターネットという不確かな情報源が発達してしまった今では、たとえば、料金が違う(えてして値上がりしている)、もうなくなっていた、そもそもそんなものは最初から存在しない(!)など実にさまざまで、そんなことでいちいち肩を落としていたらそれこそ脱臼してしまいます。結局はそこに行ってみるまで、自分の目で見るまでわからないのです。

シャワーはあきらめテントの設営にとりかかります。ベンチ近くの場所はもうすでに何張りかのテントがあったので、僕はそこから離れて眺めの良い場所を選びました。近くにひとつテントがあり、なんとそれは日本製の山岳テントではありませんか。あ、日本人だ。そう思い日本語で挨拶します。

ラスベガスでレンタカーを借り、やはり同じようにこの辺一帯のナショナルパークを見て周っているというT夫妻。自己紹介もそこそこに、その後はすっかり意気投合し、ひさしぶりの日本語での会話にストレスなどあるはずもなく、ビールまで頂いて、とても楽しい時間を過ごせました。

T夫妻は山登りやクライミングが趣味で、驚いたことにモンブラン(ヨーロッパ)やキリマンジャロ(アフリカ)なんかにも登頂したことがあると言います。僕も恥ずかしながら山登りのようなことをやっているので、その体験談はとても興味深く心くすぐるものでした。実際この旅でいくつかの山に挑戦したいと考えていた僕は、話を聞いてその思いはさらに強いものとなりました。

きれい。

夕焼けと残丘。

雲がいい感じ。

何もないキャンプ場。T夫妻と並んで。

モニュメントバレーには2泊しました。

もしかしたらここはこの世の果てなんじゃないか?
お世辞ではなく本当にそう思ってしまうほどの眺めがそこにはありました。特に朝夕の神々しさは間違いがなく、見る者を天にも昇る気持ちにさせます。実にまる2日。ただひたすらその景観をながめ続けていました。ひとつも見飽きることはありませんでした。そして僕はこのときにやっと大陸のスケールのでかさにすっかり思考回路がおかしくなってしまったことを自覚したのです。

この景色にはやられた。完全に。

モニュメントバレーは園内を車で走ることができ、
さまざまなポイントでさまざまな景観を楽しめる。

園内のところどころにインディアンアクセサリーの土産屋があった。
そんな目で見られると困ってしまう。

朝焼けのビュートは一見の価値あり。

ここにもカメラ好きな国の人々。

サンフランシスコから東へとった進路もここで折り返しとなります。これからはロサンゼルスに向けて西へと向かいます。グランドサークルツアーの折り返し地点がモニュメントバレーとは我ながらいい選択だと、払暁の中に浮かび上がるビュートを眺めながらつくづく思うのでした。

つづく。

2 件のコメント:

  1. まじやばいって!
    頭の中がね、なんにも働かなくなったよ。

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