2011年7月13日水曜日

寝床をめぐる冒険 vol.1

山で出会ったメキシコ人とも再会でき、メキシコ湾でのスノーケルを楽しんだ僕。海で遊んだ翌日の朝は日焼けした背中が少し痛み、同時にきれいだった海を思い出させるのでした。


早い時間にホテルをチェックアウトしました。ベラクルスから次の目的地であるサンクリストバル・デ・ラスカサスまでは2日で走ろうと考えたからです。とくに先を急ぐ旅ではないのですが、地図を見る限り3日かけるには短く、2日で届きそうな距離だったからです。

とは言いつつも、それは頑張ればという前置きがついた話で、のんびり走っていてはとても到着できないでしょう。ならばとひたすら先に進むことに専念します。ベラクルスの町を抜けたら国道180号を東へ東へ。そして今日もまたくそ暑い。信号待ちで止まっただけで汗が吹き出ます。こんなときは休憩時に飲む冷たいコーラがこの上なくおいしく感じます。

バナナ畑で。

海沿いから離れ、ミナティトランに到着したのはもう17時を過ぎていましたが、日没までにはまだ時間がありました。よし。まだいける。少し道に迷いながらもさらに先に進みます。19時をまわり、紅い太陽が地平線に近づいたところで、国道沿いの小さな公園に到着しました。そこは町からだいぶ離れた集落にあって、何人かの人がベンチに腰かけ夕涼みをしていまいした。公園の奥には村役場のような事務所があり、僕はそこの事務室にいたおじさんにここで寝ていいか?とたずねてみました。普段はあまりそういうことをしないのですが、このときはなぜか自然と聞くことが出来たのです。

おじさんは僕の申し出を快諾してくれて、しかも事務所脇の屋根の下を使っていいと言ってくれました。とてもありがたいことです。早速テントを張り、パスタを茹でて夕食にしました。陽が落ちてあたりは暗くなりましたが、公園の街灯のおかげで一連の作業に困難はありません。食べ終わって公園のベンチに座ると、いつの間にかそこには多くの人が集まっていました。大人たちはベンチに集まり会話に花を咲かせ、子供たちは走り回って遊んでいます。きっといつもこうやって夕暮れの時間を楽しんでいるのでしょう。僕は目に映るのんびりとした風景を少し離れたベンチから眺めていました。それはとても穏やかで心安らぐものでした。

夜になったとはいえ気温はわずかに下がっただけで、暑いことには変わりありません。寝袋なんかは足元に追いやったきりで、マットの上で大の字になって目を閉じました。テントのインナーのメッシュ部分からわずかに吹き込む夜風が実に新鮮でした。

村人たちが夕涼み。

朝を迎え、6時に目を覚ましました。コーヒーを入れ、パンとチーズの朝食。テントを撤収したらメモ用紙にありがとうとメッセージを残し、誰もいない公園を後にしました。進行方向にはまだうっすらと赤みを帯びている大きな太陽が低い位置に浮かんでいます。朝のこの時だけが、一日のうち一番過ごしやすい時間です。しかし空を見上げれば雲ひとつなく、きっとまた今日も暑くなることを教えてくれました。

ほどなくビジャエルモサの町に到着しました。そこから195号に乗り換えて南へと進行方向を変えると、道は次第に山に入っていきました。地図で見た限りそれほどでもないと思ったのですが、実際それは結構な山道で、進むのにかなり時間がかかってしまいます。登りではスピードが出ず、また曲がりくねった道は地図で読むよりずっと距離があるからです。朝の計算では18時、遅くても19時にはサンクリストバル・デ・ラスカサルに到着できるだろうと踏んだのですが、このままでは21時になってしまうでしょう。

(この山道を暗くなってから走るのか)

そう思うとなんだか急に馬鹿らしくなってきて、結局もう一泊することにしました。

そこは、山の中にある小さな村でした。周りはすべて山に囲まれ、地図にはロヤンと書かれていました。どの町でもそうであるように、その村にも小さな教会とソカロがあり、その1ブロック隣には小さなメルカド(市場)がありました。夕暮れにはまだ少し早い時間でしたがソカロの脇にバイクを停め、目の前にあったティエンダ(個人商店)で水を買い、ベンチで休憩をしました。

(明日もあるならもうこれ以上進む必要もないだろう)

そう思うとそれまで張り詰めていた緊張が解け、ふっと心が軽くなりました。同時にもうこの村で泊まればいいかと考えるようになりました。

山の中を行く。

ロヤンのソカロにて。

村の子供たち。

始めはこのソカロで寝ようかとも考えたのですが、さすがにそれはまずいだろうと思いなおし、村はずれのサッカー場にテントを張ることにしました。今は数人のメキシコ人たちがサッカー場脇にあるバスケットゴールを直していて、その周りで子供たちが遊んでいますが、暗くなれば明日の朝まで誰も来ないでしょう。

しかしこの状況でいきなりテントを張るわけにもいかず、僕は作業をしていたメキシコ人たちにここで寝てもいいかとたずねました。彼らは一様に、そんなことは問題ない、いくらでも寝ていけといった感じで、僕はほっとしてサッカー場の隅にテントを張り始めました。

いきなり現れてはテントを張り始めた僕を珍しがったのは子供たちで、僕を取り囲みあれやこれやと質問攻め。山の中の小さな村に異国の旅行者がいること自体珍しいのに、さらにバイクでテントなのだから彼らはもう釘付けです。

スペイン語で、しかも皆が一斉に質問するのでその内容は良くわかりませんでしたが、とにかく、僕は日本人で、バイクで旅をしていて、カナダからアメリカと走りメキシコまで来たのだ、と説明しました。子供たちはお互いの顔を見合わせ何かを確認するように話し合っています。きっと僕の話した内容が理解できなかったのかもしれません。カナダやアメリカはもちろん知っているようでしたが、山の中の小さな村からあまり外に出ることもないだろう子供たちにとってそれは地図でしか見たことのない国なのでしょう。

名前を聞かれたので答えると、子供たちはすぐに覚えてくれました。そして自分たちの名前もひとりひとり教えてくれました。好奇心が旺盛な子供もいれば引っ込み思案な子供もいて、どの国の子供も接していてとても楽しいものです。

質問攻めがひと段落し、子供たちもいなくなってやっと夕食にありつけました。米を炊き、カレーを作り食べていると、またも先ほどの子供たちがやってきました。今度はきっと噂を聞いたのであろう女の子や大人たちもやって来て、総勢20人くらいに囲まれてしまいました。先ほどいた子供たちがまわりの大人たちにいろいろと説明をしています。僕は、ぼんやりと動物園のオリに入れられた白熊の気持ちを思いやりました。

すっかり仲良し。

きれいな夕焼けだった。

実際それはなかなか楽しい時間だったのだけど、やっかいだったのは話を聞きつけた警察がやってきたことでした。ふたりで現れた警官は自動小銃を肩からかけ、なにやら怖い面持ち。そして手に持ったライトで僕を照らし、パスポートを見せろと言います。ライトでパスポートをチェックしながら、無線機で何かを確認しはじめました。先ほどまでテントの周りを取り囲んでいた村人たちは警官に追い払われ、少し離れた場所から成り行きを見守っています。

(これはちょっと厄介なことになったな)

テントの中に座り相手の出方を待っていた僕に、警官はこのテントをたため、と言いました。もう夕食も食べたしあとは寝るだけだという状況で、今から撤収とは面倒このうえありません。本当にたたまなければ駄目か?とたずねてみましたが受け入れてもらえず、さらにそれが終わったらホテルに行けと言います。

(今さらホテル?)

金を節約したいからテントなのに、これからただ寝るためだけに高いホテル代を払うのは厳しい。こんな小さな村ではホテルなんてあってひとつだけで、きっと値段もそれなりでしょう。僕はテントから出てさらに粘ってみました。ふたりの警官のうち年配の方は険しい表情を決して崩さず、僕の言葉に耳を貸そうとしません。若い方の警官は英語が片言ででき、なおかつ話が分かりそうだったので、彼にそのことを説明しました。一通り説明すると、彼はなるほどそうかと納得したように何度もうなずき、年配の警官になにか話しはじめました。

(よしいいぞ。頑張るのだ)

心の中で若い警官を応援しました。しかし年配の警官は一文字に結んだ口を開くこともなく、一向に険しい表情を崩しません。それから年配警官が心の中でどういう決断を下したのかは分かりませんが、テントを片付けたらパトカーの後について来いと短く言いました。

(さて。吉と出るか。凶と出るか)

心配そうに見守る村人たちの中、僕はテントを撤収し、パトカーの後についてすっかり暗くなったサッカー場を後にしました。

つづく。

4 件のコメント:

  1. 流山の旅人2011年7月13日 14:21

    おい!!
    そのまま逮捕されちまえ!!


    数日前に仕事を辞めた

    とりあえずねぶた祭りだ!!

    その前に
    カラオケ電車に花火大会

    イカイカイカイカいか踊りだぜ


    帰ってくんだろ

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  2. 果たして逮捕されたのか?

    つか仕事やめちゃったんすね。
    この夏ははじけちゃう感じじゃないすか!

    ちょっと帰りたいっす。

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  3. かなりしばらくアップデートされてないので、無事だと良いのですが。。。?私はベトナムから無事帰国してまたニセコ生活が始まったよ。でも来週、チーチとカリーナの結婚式で10日程オーストラリア行ってきます。ジンベイザメと泳いだの?今はどこ??

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  4. 無事です。というかいろいろあってまたアメリカに戻ってきてしまった。

    次はオーストラリアかぁ。忙しいね。
    チーチにおめでとうと伝えてください。

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