2011年7月11日月曜日

潮風香るベラクルス ~ナツイチがくれた夏~ vol.2

山で出会ったメキシコ人と再会するべくベラクルスまでやってきた僕。なんとか海に行く約束を取り交わし、当日の朝を迎えるのでした。


朝7時。約束どおりの時間にメキシコ人に電話を入れました。彼は集合場所と集合時間だけを的確に僕に教えると(手持ちのコインが少なく長電話ができなかった)電話を切りました。
ホテルのフロントで延泊を申し出て、料金を支払い、必要なものを小さなバッグに入れて部屋に鍵をおろしました。駐車場の扉を開けてもらいバイクにまたがると、教えてもらった集合場所へ向かって走り出します。

早朝の町はとてもさわやかで、昨日の夜の賑やかさは欠片もありません。車もまばらで、地元の人たちが朝の散歩を楽しんでいました。煌々とライトを灯し、おいしそうな匂いで胃袋を刺激するたくさんの屋台もみつけられません。ホテルのまわりにだって何軒もの屋台があったはずです。いったいどこへ行ったのだろう?そしてまた夜が来れば、昨日と同じように魅惑的な匂いで僕を誘うのでしょう。

海沿いの道をしばらく走り集合場所に到着した僕は、バイクに腰掛けながら彼の到着を待ちました。20分ほどすると見覚えのある鮮やかなオレンジのバイクがやってきて、僕の前に停まりました。リアシートには彼女の姿もあります。

「誘ってくれてありがとう」

ふたりと握手をして再会を喜びます。

「山はどうだった?」

彼はたずねましたが、僕はただ首を横に振るだけでした。

ここからさらに20分ほど走った場所に知り合いの舟があるらしく、僕は彼の後に従ってバイクを走らせました。到着した先は一面の浜辺で、いくつかの舟と、いくつかのレストランが並んでいました。浜辺にはちょうど日本の海の家のようなつくりの建物があり、僕らはそこのテーブルについてビールを注文しました。きれいな海を見ながら飲むビールはまた格別です。

彼とは英語で話しができるのですが、彼女のほうはスペイン語しか話せなく、なんとも片言の会話になってしまいます。ですがそれでも言いたいことはお互いなんとなくわかるようで、彼女の地元であるオアハカの話で盛り上がりました。オアハカには行ったの?と聞かれ、行ってないと答えると少し悲しそうな表情を見せたのがとても印象的で、なぜか少し胸が痛みました。

ほどなくして彼の知り合いが現れ、軽い挨拶のあといよいよ舟に乗り込みました。舟といっても大きなものではなく、日本の港町にあるような漁船とまったく同じです。知り合いが船長らしく、馴れた手つきで日本製の船外機をスタートさせました。小さな舟は7人も乗るといっぱいで、だけどそれは海の上を波から波へ文字通り飛ぶように進んでいきました。

浜辺は砂まじりのチョコレート色だった海の色も少し沖に出るとコバルトブルーで、透明度の高さが一目でわかります。遠くには南国の木を生やし、どこかのパンフレットで見たような小さな島がいくつか浮かんでいました。今日も気温が高く紫外線は有無を言わさず肌を刺しますが、風を切って海の上を走る舟の上はとても爽快でした。

メキシコ湾クルーズ。

結構なスピード。気持ち良い。

30分ほど走ったところで舟はスピードを落とし、僕たち以外に乗り合わせたメキシコ人たちが次々と海に飛び込んでいきました。彼らは漁師で、スノーケル一式と手にモリのようなものを持つとあっさりと海に入っていくのです。モリのようなものは木の棒の先にかぎ針のような鉄の棒が付いているだけで、これでタコをとるのだと言いました。素潜りで、しかもそんな道具ひとつでタコをとるのだからなんとも驚きですが、中には20歳そこそこに見える青年もいてさらに驚きました。きっと小さな頃から海に潜ってきたのでしょう。

船長と僕たちだけを残した舟はそこからさらに少しだけ進み、いかりを下ろしました。陸からかなり離れた場所でありながら水深は3mほどで、その一帯だけ海は淡い色をしていました。船長は何かを言い残すと(僕には理解できなかった)やはり先のメキシコ人たちと同じように海に潜っていきました。

「僕らはここで泳ごう」

彼はそう言うと僕のためにスノーケルセットを貸してくれました。そして陽差しが強いから気をつけたほうがいいとも忠告してくれました。だけど僕はTシャツにハーフパンツしか持っておらず、上半身は裸になって海に入るしかありません。

飛び込んだ海の中は魚の楽園で、鮮やかな体をしたさまざまな魚が大きな珊瑚のまわりを気持ち良さそうに漂っていました。僕と彼はときに一緒に、ときに気ままに、どこまでもでも見えるのではないかと思えるきれいな海を堪能しました。水温はまだ少し低いけれど陽射しが気持ちよく、どれだけでも泳いでいられそうでした。こんな世界を目にすると、人知れず存在する南国の海はまさに楽園なのかもしれないとさえ思えます。

ひとしきり泳ぎ(結局2時間くらい遊んでいた)舟に戻ると、メキシコ人たちもぽつりぽつりと舟に戻ってきました。腰に巻いたロープの先には何匹ものタコが通されています。すごいものだなと感心していると、ひとりのメキシコ人がとても大きなロブスターを手に戻ってきました。このあたりから中米にかけてロブスターが盛んに取れることは聞いていましたが、実際にその姿(それも巨大な)を目の当たりにするとやはり興奮してしまいます。

どこまでも透き通る海。
珊瑚と魚の楽園だった。

採れたてのタコ、うまそう。

今日の成果はどうだったのだろう。普段を知らない僕にはわかりませんが、ロブスターまでとれたのだから悪くないのかもしれません。全員を乗せた舟は、行きと同じく猛スピードで浜に向かいました。浜に到着すると朝と同じテーブルに戻り、ビールを飲み、ポジョアサード(チキンの丸焼き)を食べ、とりとめのない話で午後のゆったりした時間は過ぎていきました。心地よい海風が吹き、子供たちは声を上げて遊んでいて、それは時間が引き延ばされたような午後でした。

僕はずいぶん昔からデジタルカメラにナツイチ(集英社文庫が夏に行うキャンペーン)のストラップ(はちが本を読みながら涙をながしているデザイン)をつけているのですが、彼女はそれをいたく気に入ったようで、僕はそれを彼女にあげました。彼女はとても喜んでくれ、大切にすると言ってくれました。

暑い国で飲むビールは格別。

ゆったりした午後。

おりゃー。

夕方になって街に戻り、彼らとは途中の交差点で別れました。ホテルに帰ってシャワーを浴びると、肩から背中にかけてひりひりと痛みました。太陽の下にさらした肌はあっさりと焼けてしまったようです。ナツイチのストラップがくれたものは、少し痛む背中の日焼けと、忘れられない旅の思い出でした。

おわり。

2 件のコメント:

  1. ふじやまかな2011年7月14日 14:19

    素敵な出会いと良い旅を続けているようだね!ちょいちょい思い出しては楽しく読ませていただいてます!
    ちなみに私も今月末から1カ月ベトナム、その後1カ月マレーシア、ボルネオ島へ行く予定です。メキシコ縦断はあとどれくらいの予定かな?その後はどこまで南下するの?今年のニセコは雨ばかりの夏で早く脱出したいです。またブログ楽しみにしてます!かな

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  2. 今はもうメキシコを抜けてグアテマラのアンティグアにいるよ。毎日雨でちょっとうんざりしています。

    ベトナム旅行楽しんで!

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