2016年12月6日火曜日

ならぬキト日記 登城編

道は、いつの間にか首都に入ろうとしていたのだけど、僕はそのことに気付かずにいた。
赤道を越えた途端、なぜか死んでしまったメーターのおかげで、自分がどれだけの距離を進んだのかわからなかったのだ。あたりを見回しても、未だアンデスの山道を走っている。

(地図上ではそろそろのはずだけど)

そんなことを考えながら走っていると、途端、煉瓦造りの民家や商店が雑多になり、いっきに町中に入っていった。

キトは、エクアドルの首都だ。アンデスの山々に囲まれた標高2850mの盆地にある。町の中心は、旧市街と新市街に分かれていて、どちらもその名の通りの雰囲気を保っている。僕は、旧市街にハンドルを向けた。そこは細い石畳の路地が迷路のようで、新市街の陽光溢れる目抜き通りとは対照的だったが、陰鬱と重厚な歴史を感じさせてくれる雰囲気は、この上なく素敵だ。小回りの利く小さなバイクはこういう路地には好都合とはいえ、坂道と一方通行の多さには、さすがにうんざりさせられる。

修道院前の広場に出たのは、旧市街に迷い込んで1時間も経ってからだった。ふたつの塔が天にそびえる修道院の前に、サッカー場ほどの広場があった。やわらかな陽があふれ、ハトが群れを成していた。ぎちぎちとした街並みに突如現れる空間の広がりに驚かされると同時に、いかにこの修道院が歴史あるものかがわかる。見上げる空は、青かった。

(いいところだな)

スクレは、その広場のすぐ脇に門を構えていた。安宿にしては、大きな扉が不釣り合いに感じられる。扉を開けると、目の前に階段があった。

長期旅行者の中で、有名な宿だった。シングルで4.5ドルという安さはもちろんある。しかし、盗難が後を絶たない、という噂で有名であった。シングルルームなのだが、宿の従業員は合鍵でいつでも部屋に入られるわけで、そんな中で盗難があっても、宿側がなにも知らないと言えば、宿泊者は泣き寝入りするしかない。宿泊者が取れる対策と言えば、自分が持っている南京錠をドアの施錠に使うか、貴重品を部屋に置いておかないということくらいだ。もっとも、盗難はどの国のどの宿に泊まっても100%安全とは言えない。結局は自己責任という言葉で、旅を続けるしかない。

もちろん僕はスクレを選んだ。盗難よりも、4.5ドルという安さを選んだのだ。建物の2階から4階がホテルと聞いていたので駐車場を心配していたが、1階入り口の階段脇のスペースにバイクを停めていいということだった。ありがたい。
新市街に行けば、ここよりもきれいな宿に泊まれるのだろうが、倍の金額を出しても足りないだろう。すこしキトでゆっくりするつもりだったから、滞在費は安いに越したことない。それに、今までの経験上、新市街よりも旧市街の方が、好きだった。単純に、面白いという表現もできる。
治安という点からいえば、もちろん旧市街を避けた方が賢明なのだろうが、それ以上に心くすぐるものが、そこにはある。その国の、その土地の、そこに暮らす人々の、隠すことのできない息づかいを感じられる。上っ面じゃない、本当の部分。そういう部分に、新市街よりも旧市街の方が、圧倒的に近い。

 サンフランシスコ大聖堂。
キトっ子の憩いの場。

 こちらは独立記念広場。
修道院からもほど近い。

結局スクレには2週間ほど滞在した。エクアドルは物価も安く、長期滞在に適していた。それに、キトはそれなりに見るところもあった。宿には世界中から様々な旅行者がやって来たし、足しげく通った食堂のおばちゃんとも仲良くなった。なにより、目の前が南米最古と言われる修道院という、大変恵まれた環境が素敵だった。

つづく。

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