2012年8月22日水曜日

コーラーの国 vol.3

ツアーに参加してみた。ツアーといっても観光客向けなどではなく、それはボランティアによって日曜に催行される地元向けのものだった。たまたまガイドブックで見つけ、たまたまその日が日曜だったので、これもタイミングと思い朝早くから起きてツアーに参加してみたのだ。地元向けなので料金は数ドルと格安で、実際外国人は僕ひとりだった。

6時半集合とあって早い時間から起きだした。観光案内でもらったパンフレットによると面白そうな国立公園へ行くプランがあったので、すっかりその気でのこのこと集合場所の公園へ向かったのだが、希望の国立公園へは僕以外誰一人候補者がおらず(なぜだ?)、結局そのツアーが催行されることはなかった。代わりにラス・フローレスとコスタ・デル・ソルというツアーのどちらかに参加しなければならなかった。

「おいハポネス、一緒にこっちのツアーに行こうぜ」

ボランティアのガイドたちがしきりに誘う。ほかに何も考えていなかった僕は誘われるがままだった。結局ラス・フローレスという名のツアーに参加することになった。

12人乗りのバンにきっちり12人乗り込んで、7時半に公園を出発した。どこかの国立公園にでも行くのかと思ったが、それは単に地方の町をいくつか見てまわるという内容のものだった。出発してから17時半に帰ってくるまでに、西にある小さな町をいくつか訪れただけだった。正直これならもうひとつのツアー(太平洋側にあるリゾートに行くらしかった)の方に行けば良かったかなとも思った。
しかし昼に訪れた町でビールを買い、小さなソカロのベンチに腰掛け、柔らかな日差しを浴び、土産屋のおばちゃんとおしゃべりをし、町行く人々をぼんやり眺めていると、むしろこっちの方がエルサルバドルという国を知ることが出来るかもしれないなどと思い、それならそれも悪くもないな、なんてひとりで納得したりした。
またバンの運転手もガイドの女の子たち優しかった。

「あっちに行くと土産屋がたくさんあるぞ」
「こっちには古い教会があるわよ」

町に到着するなり、不案内な僕にいちいち教えてくれた。

果物は本当に豊か。

 こういう壁画をたくさん見かける。

帰り道の車内でもいろんな話をした。僕の稚拙なスペイン語を一生懸命理解しようとしてくれるのもうれしかった。

「ハポン(日本)はいったいどんな国なんだ?」

皆の興味はそこに集中した。ハポンという名は知っているが、はっきりとしたイメージを持った者は誰一人居なかった。

「日本は中国、韓国とは違うのか?」(何がどう違うのかさえイメージが沸かない様子だった)
「グラシアス(ありがとう)は日本語でなんて言うんだ?」
「日本には牛がいるか?」
「日本人は魚を生で食べるんだろ?」(すしという単語は知らなかった)
「何か日本の歌を歌ってくれ」

狭い車内でたくさんの質問が飛び交った。僕はひとつひとつの質問に答え、聞くに堪えない歌を歌った。そして

「ホンダもスズキもヤマハもカワサキもトヨタもニッサンもマツダもミツビシもヒノもソニーもニコンもキヤノンもすべてすべて日本の会社だ」

と説明した。その言葉には皆驚きを隠せない様子だった。それらがどこの国の会社なのか知らない者も居たし、アメリカの会社じゃないのか?と言う者も居た。まさかそれだけの日本製品がエルサルバドルの日常にあふれているとは想像だにしなかったのだろう。大海を挟んだ小さな島国は、彼らの中では実体をつかめない謎めいた国なのだと知った。

運転手とガイドの女の子たち。

おわり。

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