2013年10月11日金曜日

グラン・コロンビアへようこそ vol.1

ボートはゆっくりとカルタヘナの港へ滑り込んだ。水平線にうっすらと見えていた街の影は今やもう目の前で、立ち並ぶビルがこの街の大きさを物語ってた。港沖にはいくつものボートが停泊し、岸壁に張り付いている大型のタンカーからはコンテナが次々と下ろされ、山と積まれていた。

南米大陸だった。今、僕の前には南米大陸がある。果てしなく広い大陸が、手を伸ばせば届きそうなところに。
これから始まる新しい旅に胸がおどった。やはり船で渡ってきたことは正解だった。もし飛行機で空港へ降り立っていたなら、これほど心が昂揚することもなかっただろう。

ボートは港沖に碇を下ろした。てっきり着岸するものと思っていたがそうではないらしい。カルタヘナの街並みを見ながら最後の朝食をデッキでいただくと、クルーが小型のゴムボートを運転し、乗客全員を桟橋へと渡した。僕の足は、初めて南米大陸を踏んだ。

ボートでの最後の食事。

そして上陸。

イミグレーションまでは数台のタクシーに分乗して移動した。入国カードを記入するだけで、どこかの部屋に入るわけでもなく、役人のいるカウンターに並ぶわけでもなく、そのへんをぶらぶらしているだけでほどなくしてボートに乗っていた全員のパスポートにコロンビアの入国スタンプが無事に押された。

船に戻る。バイク乗り以外の乗客はこれで解散のようだった。が、バイクの通関作業は明日ということなので、僕らバイク組みはまた明日の朝桟橋に集合ということだった。
とりあえず一日過ごせるだけの荷物を持って陸へあがる。他の乗客たちはタクシーだったり歩きだったり、皆思い思いの場所へ散っていく。僕は、ドイツ人の自転車乗りヘンスと一緒にカルタヘナの旧市街へと足を向けた。

明日の通関作業ももちろんだが、数日はカルタヘナに滞在しようと思っていた。
これからのルートを考えたかったし、コロンビアの通貨も必要だった。カリブ海に面したこの港町は、古びた要塞と、歴史的建造物が世界遺産にも登録されている。さらに国内きっての観光地だとも聞く。

ヘンスもそのつもりらしく、それならふたりで宿の個室をシェアした方が良いだろうという話になったのだ。個室をふたりで使えるなら気兼ねがないし、部屋代も折半すればドミトリーに泊まるより安い場合が多い。普段ひとりで動いていると難しいことなのだけど、船の上で知り合えたのはラッキーなことだった。

港から歩き出すと、すぐに汗がふきだた。暑さにのどが渇く。コロンビアのカルタヘナは暑いところだと聞いていたのだけど、これはかなり暑いと形容しても足りないほどだ。
旧市街まで歩き、ヘンスが調べていたホステルに部屋を取った。ツインルームでひとり20000ペソ(約11ドル)は妥当な値段だったが、あいにく駐車場はなかった。明日バイクを引き取ったらどこか駐車場を見つけないといけないな、そんなことを考えていると、ホステルのロビーにひとりの日本人が入ってきた。

(あれ?どこかで見たことがあるな)

それは相手にしても同じだったようで、まるで時間が止まったかのように、ふたりの動きも止まってしまった。

イクちゃんだった。それは本当に偶然の再会だった。彼女とはグアテマラのアンティグアで会っていた。僕が走行中に転倒してしまい、怪我のために1ヶ月ほど停滞していたときに同じ宿だった。毎日一緒にシェア飯(食費を出し合い共同で食事をすること)をしていた仲間で、コロンビアに入ったとは聞いていたが、この広い国で、まさか僕が入国したその日に出会うとは。

「なんでこんなところに?」

可笑しかったのは、お互いの言い分が一緒だったことだ。

彼女はコロンビアからパナマへ向かうため、ここカルタヘナでパナマ行きのボートを探しているところだと言った。なるほどそうか。やはり中南米の間を空路を使わず移動しようとすれば、必然的にパナマ・シティー、カルタヘナ両都市に集まるというわけだ。

うれしい再会を祝して3人で出かけることにした。宿の前の食堂で昼食をとり、カルタヘナの旧市街を散歩した。街並みはとても美しく、多彩な建造物はどれもすてきだった。街を抜けて海に出ると一面のカリブ海を見渡せた。海岸に沿って城壁が作られ、いくつかの砲台が無造作に海に向かって置かれていた。
まさに今日、この海を越えて南米に降り立ったのかと思うと、長かった北中米の日々がすでに懐かしく思えてしまった。

まさかの再会。


要塞の砲台はいまでも海に向かっていた。

通りに立つ両替商に手を出したのが失敗だった。ATMでカードが使えなかったので、つい通りで声をかけてきた両替商にお願いしてしまった。レートは1ドル2000ペソとかなり良かった(銀行は1800ペソ前後)。後から思えばその時点で気づくべきだった。やっと南米大陸に入れたという浮かれた気持ちがあったのかもしれない。

40ドル分両替したつもりなのに、僕のポケットに入っていた金はたったの20000ペソだった。残りの60000ペソはどこへ消えてしまったのか。
最初に勘定したときには79000ペソが確かにあった。でもこれじゃ1000ペソ足りないよと相手にそれを確認させたときに抜かれたのだろう。その場にはヘンスもイクちゃんも居て事の成り行きを見ていたのだけど、誰もまったく気づかなかったのだから、相当手馴れているに違いない。

今までこういった手口をやられたことがなく、また盗難や強盗にも運良く出会っていなかっただけに、旅が長くなるにつれ鈍感になっていたようだ。

「That's Columbia!!」

ため息をつく僕の肩を、イクちゃんは励ますようにポンとひとつ叩いた。

「やれやれまったくコロンビアだね」

南米初日にして洒落た歓迎を受けてしまったけれど、これから続く長い陸路を考えれば今まで以上に気を引き締めて走らなければと、消えた30ドルはいい授業料と思うことにした。

つづく。

2 件のコメント:

  1. ムラタ@中川2013年10月11日 22:33

    お!アップしはじめたね。
    楽しみにしてるよ~
    お互いしばらく机上で旅しよう!

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  2. やっと重い腰上げました。

    ずいぶん時間が経ってしまいましたが、
    おかげで当時の日記を読み返すのが楽しかったりします。笑

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