2016年9月12日月曜日

国境の町、深い谷、麗しき協会 vol.3

朝、ベッドから抜け出したら、バイクを取りに駐車場に向かった。外に出ると、とても良い天気だった。雨の心配はない。これなら国境の町まで、問題なく走れそうだ。
荷物をまとめ、チェックアウトをする。いざ宿代を払おうとしたら、なんと代金はUSドルでもいいよ、と言ってくれた。

(あれ?昨日聞いた時、ドルはだめで、コロンビア・ペソだけと言われたのだけど)

なにはともあれラッキーなことだ。レートは1USドルが1700コロンビア・ペソ。悪くない。20ドル紙幣を払うと、宿代を差し引いて22000ペソがおつりとなった。これで少し懐が潤った。

ポパヤンからは、コロンビア初のパン・アメリカン・ハイウェイ(パンナム)に乗った。広大な南北アメリカ大陸を、国境を越えて縦に貫くそれなら、さすがに昨日のようなダートはないだろう。
よし、国境まで一気に走るぞ!と意気込んでみたものの、それが折れるまで、さほど時間を必要とはしなかった。道路標識にはパストまで250km、さらに国境のイピアレスまで90kmとあり、出鼻をくじかれた。さらに、道はいよいよアンデス山脈の懐に飛び込んでいく。景色は一変した。

(よくぞまぁこんなところに道を通したものだ)

感心してしまうほど大変な峠道である。登っては下り、また登っては、また下る。川や大きな沢がある度に、その下部までひたすら山肌を降りていき、そしてそれをまたぐと、今度は目の前に立ちはだかる尾根を越えるため、ただひたすら登る、それの繰り返し。日本ならそこに大掛かりな橋をかけそうなものだが、ここでは自然の地形そのままに道を通しているので、九十九折りの道がどこまでも続いた。こんなんじゃとてもスピードが出せない。非力な僕のバイクでは、登りとなれば時速30㎞が関の山。

(こりゃ今日中にイピアレスなんて、とても無理。ごめんなさい。アンデス。甘く見てました)

堂々たる山並みに、自身のちっぽけさを感じた僕は、素直に現実を受け入れることにした。それどころか、どこまでも連なる山々の壮大な景色に、朝の予定などどこかへ吹き飛んでしまって、清々しささえ覚えた。

すごい。言葉が出ない。

 沢があるたび、下っては登る。

そんな峠道が、気が付いたら終わっていた。

(おかしいな。まだひとつも山を下りていないのに?)

山の上の台地に出たのだった。標高は、そうとう高いはずだ。こんな広大な台地が山の上にあるとは。ところどころ町まで散見された。一旦道が下り始めると、ひらけた視界の先に、大きな町が見えた。パストだった。

町はとんでもないお祭り騒ぎで、僕を迎えてくれた。
至るところに赤いTシャツを着た人がいて(というか車道にまで溢れていて)、赤い旗を持ち、赤いラッパを狂ったように吹き鳴らしていた。往来の車もをそれに応えるかの如く、クラクションを鳴らしまくる。うるさいったらありゃしない。いったい何なんだ?

あまりに異常な光景だったので、僕は道すがらのおやじに尋ねてみた。この騒ぎはいったい何なの?すると、今日、まさにこれからコロンビア・プロサッカーリーグの決勝が行われ、この町のチームであるデポルティーボ・パストが優勝を賭けて戦うのだ、というようなことを鼻息荒く説明してくれた。なるほどそうか。

しかしさすがはラテンの人々である。もう町全体がお祭り騒ぎ。セントロ(町の中心地)に出向くと、町中の人が集まったんじゃないかと思えるほど混雑している。若者たちは意味もなく走り回り、道はまったくの渋滞。おかげで、お目当てのホテルにたどり着くのに大変難儀した。

パストの町。ここが山の上とは思えない。

道すがらグッズを売る人がたくさん。

町の中心は大変なことに。
 
その日取ったホテルはとてもレトロな作りで、名前もマンハッタンといかしていた。建物は古く、駐車場がまたしてもなかったが、シングルで12000コロンビア・ペソはありがたい。20畳ほどの部屋にベッドがみっつもあり、テレビまであった。表通りに面した大きな窓を開け放つと、町を行く(お祭り騒ぎの)人々を眺められたし、床がなんと板張りだった。大抵のホテルはコンクリートで固められた箱のような造りの部屋なので、床が板張りというのはめずらしい。宿の中央はロビーになっていて、レストランがあり、おおきく抜かれた天井からは太陽のあかりが柔らかかった。

レストランが併設されていたので、夜は久しぶりにまともな食事にありつけた。テレビではちょうどサッカーの試合が放映されていて、ビールを片手に、他の宿泊者のコロンビア人たちと一緒に盛り上がった。残念ながらパストは惜敗に終わってしまったけれど(もし優勝しようものなら、その夜はとんでもない騒ぎになっていたかもしれない)、たまたま通りかかったアンデス山中の町での一晩としては、大変印象に残る出来事だった。

落ち着いた部屋だったマンハッタン。

こんなごはん食べてます。
それにしてもサッカー盛り上がったなぁ。

つづく。

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