工程をいちにち多く刻んだ(というか、アンデスの山が手強すぎて刻まざるを得なかった)おかげで、今日の走行距離は100kmもない。いつもの半分以下。走行中、休憩をたっぷり取ったにもかかわらず、13時過ぎに国境の町イピアレスに到着することができた。
早い時間に到着したのには、ひとつ理由があった。この町の近くに、世界一美しいと言われる教会があるという。果たして世界一かどうかは定かではないが、それはぜひ見てみたいと思った。コロンビアの南端、小さな山中の町に立ち寄る理由として、これ以上が必要であろうか。
「サントゥアリオ・デ・ラス・ラハス」
それがその教会に与えられた正式な名前だった。しかし、旅人からは単に「ラス・ラハス」と呼ばれていた。僕は(もちろん)コロンビアに入ってからその存在を知ったのだけれど、北部から南部へ歩むにつれ、その噂話を聞く機会は明らかに増えていった。そして誰もが押し並べて良かったと口にした。そんな教会を素通りするなんて忍びない。
いざ。町から8㎞ほど走ると、眼下に突然それが現れた。道端の展望台からは、小さく見下ろすかたちで眺められる。
(おぉ。これは意外にいいじゃない)
正直さほど期待していなかった。期待していなかっただけに、これは素直うれしい。坂道を駆け下る。近づくにつれ、徐々に迫力を増していく。深い谷に佇む、麗しき教会。これまで多くの教会を見てきたが、造形美、ロケーション、それにまつわるストーリーを含め、かなり良かった。眺めていると、時がたつのも忘れてしまいそうだった。
緑の谷の教会。
教会内部も良かった。
サントゥアリオ・デ・ラス・ラハス。
だけれども、僕にはメキシコのグアダラハラの教会を抜くほどではない、というのが正直な感想だ。グアダラハラで、生まれて初めて目の当たりにしたカテドラル。夕照の中、美しくもはかなく佇んでいて、旅の序盤、ラテンの世界にまだなじんでいなかった僕に、否応なく強烈な印象を残した。今でもその姿をまぶたの裏に思い出すことができる。
「旅をしていて、どこが一番良かったですか?」
1度や2度ならず、旅人ならきっとうんざりするほど答えてきた質問だと思う。同じような旅をして、同じ場所、同じ物を見てきたにもかかわらず、答えは千差万別だ。それが、旅をする理由であり、面白さなのかもしれない。
教会を後にし、来た坂道を駆け上がりながら、ふとそんなことを考えた。
おわり。
0 件のコメント:
コメントを投稿