2011年5月21日土曜日

バハカリフォルニアの赤い砂 vol.3

バハカリフォルニア半島も半分がおわり、目的地ラパスへ向けて走り始めた僕。時差により1時間時計は早まりましたが、南下するにつれ町と町の間隔が狭くなり、また緑も目に見えて増え、徐々に砂漠地帯から開放されているのだと精神的に楽になるのでした。


荷物をバイクに積み、ホテルのオーナーと奥さんにあいさつをして部屋を出ました。あまり清潔とはいえないホテルでしたが、オーナーも奥さんもとてもいい人で(本当に)、印象は悪くありません。
さて、バハカリフォルニアが半分終わったといえど、目的地のラパスまでまだまだ先は長いのです。さらにラパスまで3日で走ろうと考えると、あまりのんびりしてはいられません。今日もまたぎらぎらと容赦のない太陽を体いっぱいに浴びながら、昼を待たずに30度を越える気温の中、軍による検問(バハカリフォルニアに入ってから何度か軍の検問があった)を笑顔のみですり抜ければ、やがてサンタロサリオの町に到着しました。

ここは海沿いの町。ずっと砂漠の中を走ってきた僕には目に映る海はその青が新鮮で、やっとコルテス海(カリフォルニア湾)を見ることができたとうれしくなってしまいます。しかも町にはめずらしく街路樹が植えられていて、その豊かな葉は木陰をつくり、海沿いとあって吹く風は涼しく、砂埃舞う砂漠の町とは対照的な雰囲気を感じました。

ついにカリフォルニア湾と。

海とサボテン。
ここはバハカリフォルニア。

街路樹が豊かな木陰をつくる。

さらに南に下ると道はロレトの町に入ります。このあたりから少しづつ農場が見受けられるようになりました。徐々に砂漠地帯から抜けていることを実感できます。砂と岩とサボテンだけの色のない景色から、瑞々しい農場を見つけるだけで豊かさを感じてしまいます。
さらにロレトは観光地らしく、旧市街にはホテルや土産屋、観光客向けの食堂が並び、めずらしく白人の姿もちらほら見かけました。町中には空調の効いた大きなスーパーマーケットがあり、品揃えも豊富で、生鮮品は文字通り生鮮だし、商品ひとつひとつにきちんと値段がついていました。店に入ってまずそのことに驚きましたが、それよりも僕はトイレにトイレットペーパーが備え付けられているのを見たときに、一番豊かさを感じました。

土産屋には色とりどりの陶器。

スーパーで冷えたジュースを買い日陰で一服していると、駐車場で冷凍の海老を売っているおじさんに話しかけられました。「ソイ ハポネス」「イル ア ラパス」覚えたばかりのスペイン語でコミュニケーション。ある程度話をしたところでおじさんは「おいお前、ところでツナミは大丈夫なのか?」と聞いてきました。日本から遠く離れた、それもこんなちいさな町でも、みんな日本の地震のことは知っているようです。僕は「大変だけど大丈夫と思う」と、片言のスペイン語交じりの英語で説明しました。それがちゃんとおじさんに伝わっているのかわからないけれど、国境を越えて心配してくれるというのはうれしいものです。

それにしても毎日快晴続き。雨季はもう少し先のようで、見上げる空には一片の雲さえありません。朝起きると空は灰色の雲で覆われていたりして、雨は大丈夫かな?なんて思ったりするのですが、バイクで走っていると知らぬうちに空は一面の青に変わってしまうのです。
ほんの少し、雲の切れ間からやわらかい陽の光が射してきたと思うと、それから30分とたたずにすべての雲はどこかへ消え失せてしまします。それはまるで何かの魔法のようでもあり、そして今日もまた肌を刺す太陽といちにち付き合うことになるのです。

ロレトの町を出ると1号線はまたしばらく海から離れましたが、やがて左へ大きく巻き込むような海岸線が見えてきて、湾の向こう側に大きな町が浮かんで見えました。それが、ラパスでした。

海の向こうにラパスが霞んで浮かぶ。

ラパスは噂通りの観光地で、高そうなホテルやレストラン、バーが立ち並び、たくさんの白人たちが海沿いの遊歩道を歩いていました。僕はそんなラパスの中心地にある安ホテルに宿を取りました。手持ちのペソがほとんどなかったのでドルで払えるホテルを探したら、そこでした。値段も19ドルとそこそこ。
ラパスに着いたら両替をしようと思っていたのですが、今日が日曜と言うことをすっかり忘れていて(というか曜日というものをそもそも気にしていなかった)、銀行どころか両替所さえ閉まっていたからです。それにしても前回泊まったホテルがホテルだっただけに、ここはかなり清潔に感じられました。ファンもあるしベッドもスプリングが壊れていないし、何よりシャワー室がコンクリートではなくタイル張りでした。

ここはもう南の海だ。

カラフルな町にはカラフルな車が似合う。

その日、ラパスの町では偶然にも祭りが行われていました。海沿いの公園にステージが作られて、道路は封鎖。僕も夕暮れをまって会場に足を運んでみました。
夕暮れの海岸線は暑さも和らぎ、会場はたくさんの人でにぎわっていました。ステージでは伝統的な衣装を着た男女が、伝統的な音楽にあわせ、伝統的な踊りを踊っていました。それは残陽を背景に、とてもリズミカルで、じつに鮮やかなものでした。僕もまわりのメキシコ人たちにまざり、ときには口笛を吹き、ときには拍手をし、その華麗な舞踏を心ゆくまで堪能しました。
陽が沈んでも祭りの盛り上がりはおとろえず見せず、ひとしきり楽しんだ僕はすっかり暗くなった海沿い歩き、ひとりホテルに戻りました。

未来の踊り手。

伝統的な。

夕焼けの会場は多くの人でにぎわう。

ミス・ラパス(?)
やっぱり伝統的。

暗くなっても大盛り上がり。

帰り道。遊園地。

明日はついにバハカリフォルニアを離れます。ラパス近くの港からフェリーに乗り、メキシコ本土へと渡ります。7日間もかけて走ってきた半島ともお別れで、少しの寂しさを感じてしまいます。しかしまだまだメキシコの魅力のほんの一部しか見ていないのだと思うと、海を渡り、まだ知らぬ土地を訪れてみたい衝動に心を打たれ、それは同時に僕を夢の世界へと連れていってくれるのでした。

つづく。

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