2010年1月22日金曜日

歩21日目 北海道函館市

天候 曇り後雪
気温 6時 -4.2度
   15時 -3.8度

情けは人のためならず。
北海道最後の夜は、その言葉の温かさを実感することとなった。

3時30分。起床。昨日までとは打って変わり、今日はまた真冬日。気温もマイナスに逆戻り。

昨日の夜中は一度トイレに起きてしまった。寝る直前に朝まで起きなくてもいいようにと、歯磨きと一緒にトイレも済ませておくのだけど、夕食後に飲んだコーヒーがいけなかったみたいだ。夜中、暖かい寝袋から出て外で用を足すのは、なかなかに辛い。
しかしその時にふと思いたった。エアマットと銀マットの上下を入れ替えてみようかと。
僕は寝るときに、薄手の銀マットを敷き、さらにその上に空気で膨らませるエアマットを敷いている。下からの冷気を銀マットで遮断して、エアマットで寝心地を良くしようと考えていたのだ。しかしそれでもかなり冷たい。寝ていると、体の接地しているところが凍てついてしまう。寝るときの一番の悩みだ。そこで試しにマットの上下を入れ替えてみようと思った。エアマットは中の空気が冷えれば寒いだけだし、銀マットは熱を反射させるので、自分の体温の輻射熱を利用しようと思ったのだ。
果たしてそれは正確だった。暖かいとまではいなかいが、以前に比べると冷えが少ない。なんでもっと早く気付かなかったのかと思うのだが、きっとテント泊を続けてこなかったら分からなかったことで、こうやって経験を積んむことでひとつひとつ学んで行くのだなぁと考えると、今までの寒さも無駄ではなかったのだろう。僕は寝袋の中でいつものように小さく丸まりながらそんなことを考えていた。

テントから出ると星が見えた。冬の星座だ。風があるが雨はやんでいる。夜に降った雨が凍ってフライシートに無数の氷の粒を作っていた。

6時00分。出発。昨日の峠の続きから。ゆるい登り坂ではあるが、それでもやはり体はそれを敏感に察知する。朝はまだまだ体力があるので、足は出る。

今日は駒ヶ岳が見える。左手にそれを確認しながら進む。一面氷の大沼を抜け、峠を下ると七飯の町があった。函館山が道の向こうにあった。

11時00分。七飯のコンビニで弁当を買って食べる。今日はレンジて温めてもらう。しかし、氷点下の寒風吹きすさぶ中で食べていると、最初は温かくても半分くらい食べたところで結局冷めきってしまう。温かな弁当の小さな幸せを奪う冷たい風が恨めしい。

七飯から函館まで、国道5号線は函館新道という自動車専用道路になる。歩きの僕は旧5号線、通称赤松街道を歩いた。そこはその名の通り、道の両脇に赤松がずらりと並び、なかなか風情のある通りだった。

14時00分。赤松街道を抜けると函館市に入った。ついに北海道最終地点だ。稚内から3週間かかった。ここから一旦フェリーに乗り、海を渡って本州に入る。旅も第2ステージだ。

今日は函館で風呂に入ってゆっくりしようと思っている。函館の知り合い(現在旅中で函館には不在)にメールでフェリーターミナル近くに銭湯か温泉がないか聞いてみると、いくつかの候補を細かく教えてくれた。そして最後に今日はどこに泊まるのかと聞いてきた。僕は風呂に入った後はフェリーターミナルの隅にでもテントを張ろうかと思う、と答えた。しばらく返事は来なかった。次にきたメールは、函館に住む別の友人からだった。
「話は聞きました。良かったら家に泊まって下さい」そう書いてあった。

嬉しかった。
知り合いは、わざわざ連絡をして、宿無しの僕のためにお願いをしてくれたのだ。そしてそのお願いを、友人は心よく引き受けてくれたのだ。
以前、知り合いは僕の家に1日だけ泊まったことがある。もしかしたらそのお返しだったのかもしれない。もしそうだとしても、例えそうでなくても、どちらにしても今の僕にはとても嬉しいことだった。

17時30分。フェリーターミナルで友人と合流した。1ヶ月前に千葉で会っていたが、函館でまた会えるとは思わなかった。嬉しい再会。お互い元気にやっていたと、握手でそれを確認するのが旅人流だ。

友人の車で温泉へ行き、しっかり疲れを癒した。5日ぶりの風呂だった。全身が温まり、心臓が大きく脈打つのを感じる。体の中を血液が巡り、まるで隅々に溜まった疲労を吸収していくようだった。
体は、さらに細くなっていた。太ももだけならず、ウエストまでも痩せていた。風呂上がりに体重を計ると、出発前に比べて2.4kg減っていた。

夕食はうまいホルモン焼きがあると、友人が焼き肉をおごってくれた。遠慮なくの言葉をありがたく受け止め、腹一杯食べ体力を蓄えた。もしこれがテントだったら、きっとインスタントラーメンをすすっていた頃だろう。えらい違いだ。

部屋に戻ると、今度は暖かい布団を運んで来てくれた。そういえば車での移動途中、これからの行動食にと函館名物の五勝手屋の羊羮まで買ってくれた。突然の訪問だったにも関わらず、こんな至れり尽くせりには涙が出る。ありがとうを何度も言ったけど、いくら言葉にしても足りない気がした。

その夜はいろいろと話しをした。友人は仕事で朝早いため12時に布団に入ったが、僕はとても幸せな気分で北海道最終の夜を過ごすことができた。

ひとりで旅をしているように見えて、その実、決してひとりでは旅ができないものだ。たくさんの人の親切を、ひとつひとつ紡ぐように、僕の旅は続いて行くのであった。

今日の歩行距離約35km。

写真1
一面氷の大沼と駒ヶ岳。氷上にはたくさんの動物の足跡があった。

写真2
旧5号線の通称は赤松街道。ふたつ名通りの素敵な街道。よく見ると電信柱も赤松色。

写真3
友人の部屋で。温泉、焼き肉後の幸せな時間。なんちゃってコンサドーレサポーターが約1名。

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