2010年1月27日水曜日

歩26日目 青森県十和田市

天候 雪時々晴れ
気温 5時 1.9度
   15時 -3.4度

以下は書き忘れた昨日のデータ

天候 雨後雪
気温 6時 2.6度
   17時 1.6度

「冬の奥入瀬とか素敵そうだね」

その言葉がずっと頭にこびりついて剥がれなかった。

あれは元日。この旅が始まった日だった。そこに居たのは、まだこれからこの旅がどうなるのか、想像の域を出ない僕だった。

その日、一緒に歩いた女性がいた。とてもポジティブな考え方をする女性だった。僕と同じく旅好きで、ひとりでどこへでも行く行動力も持ち合わせていた。

そんな彼女と一緒に歩けてとても楽しかった。色んな旅の話しをした。その時僕の旅の計画を聞いた彼女は、
「青森にはフェリーで渡るんだね。そしたら奥入瀬とか行っちゃうの?冬の奥入瀬とか素敵そうだね」
そう言った。

そんな馬鹿な!

その時の僕はそう思った。なんでわざわざ峠を越え、雪深い山に分け入らなくちゃならないの?その時の素直な気持ちだった。

でも、その日以降「冬の奥入瀬」という言葉が胸に刺さって抜けなかった。ちくちくと痛む古傷みたいだった。どうせなら見てみたい。そんな気持ちが芽生え始めたのはいつだろう。北海道を南下するにつれその気持ちは重く頭をもたげるようになり、ついには弾けてた。

よし、行こう。

そう決心すると心が軽くなった。僕は、あの言葉を聞いた時からずっと行きたかったのかもしれない。

5時10分。起床。アラームを消した朝はゆっくりだった。いつものように4時前に時計を確認したが、二度寝をしたらこの時間だった。ちょっと寝坊だ。
急いで準備をするが、こういう時に限ってミスをしてしまうものだ。コーヒーをこぼしたのだ。寝袋にかからなかっただけ良かったが、ずいぶん余計に時間を取られてしまう。
「なにをやってるんだか…」
独り言も口を突く。こんな時は深呼吸ひとつ。焦っても仕方ない。今日は日曜の朝だと思って、のんびり準備することにした。

8時00分。出発。日曜の朝気分ですっかりこんな時間になってしまった。
今日は気温が低い。雪がしんしんと降っている。カッパではなく、いつものようにスノーボード用のジャケットを着た。

9時20分。朝の通勤ラッシュか。大渋滞の七戸町を抜け、十和田市に入った。しばらく進み、国道沿いのマクドナルドでしばしまったり。12時に店を出て、近くのスーパーで食糧を買い込んだ。

これから僕は奥入瀬へ向かう。そこからさらに十和田湖を抜け、峠を越えて秋田県の鹿角に出る。その後はまた峠を越えて岩手県の盛岡まで抜ける予定だ。距離は軽く150km以上あるだろう。4泊5日の工程だ。この工程をまたトレーニングに見立てて歩こうと思ったのだ。だから食糧が大量に必要だ。

13時20分。国道4号から国道102号に折れた。この道はこのまま十和田湖まで続いている。
再度スーパーに寄り、最後の買い物を済ませた。栄養面を考え、野菜をいろいろ買った。見切り品が、小さなサイズで売られていたのが良かった。軽く、持ち運び出来そうなものは手当たり次第買った。4泊分、12食以上。食糧はものすごい量になった。食パンなどは3斤もある。バックパックに入り切らない物はカバンの脇に括り付けた。その重量はついに20kgを越え、ずしりとした重さが両肩に食い込んだ。

さて、行こうか。

両の太ももを手のひらで叩き、気合いを入れて出発した。

荷物が重くなるのと比例して足取りも重くなる。山とは違い登りでないのが救いか。
奥入瀬川には越冬のために飛来した白鳥がいて、さらにしばらく進むと道の駅奥入瀬に到着した。時間はすでに16時を回っていた。
できれはもう少し先まで歩きたかったが、今日は一段と風が強い。じきに暗くなる。今日はここまでとするのが賢明だと思った。

道の駅の建物内に入る。風が体に当たらないだけで暖かく感じる。風速1mにつき体感温度は1度下がるという。
建物内は売店と喫茶があって、しばらく青森土産を眺めて楽しんでいた。それでも立ちっぱなしは疲れるので、レジにいた店員さんに喫茶店の椅子で休んでもいいですか?と尋ねた。いいですよ、どうぞ、とありがたい返事。外に起きっぱなしの荷物を取りに行き、椅子に座った。

明日は奥入瀬渓流を歩く。国道と渓流は寄り添うようにあり、十和田湖まで続く。国道とは別に遊歩道もあるみたいだが、冬は歩けないだろうか。たくさんの滝もある。国道から見られる滝はあるだろうか。気になって店員さんに聞いてみた。遊歩道はやはり冬場は無理で、滝はいくつかなら見られるが、今は水量が少ないだろうと言うことだった。親切にパンフレットまで持ってきてくれて、丁寧に教えてくれた。
そして、
「歩いて行くんですか?」
という質問から、 僕の旅を少し話した。夜はどうするのか?と言うので、今日はこの辺で野宿しますと答えた。驚いていた。それもそのはず。今日は寒く、すでに外はマイナス3度を下回っている。北海道を出たと言ってもまだまだ東北は青森。寒さも厳しい。

パンフレットを椅子に座って眺めていると、ひとりの男性が僕の向かいに座った。支配人のようだった。どうやら先ほどの店員さんから僕の話を聞いたらしい。
「この寒さで野宿は大変でしょう。休憩所の鍵を開けておきますからどうぞ使ってください。電気もありますから」

トレーニングという僕のちっぽけなこだわりなんてどうでも良かった。僕はお礼い言い、頭を下げた。暖かい親切が、心に染みた。

先ほどの店員さんがパンを持ってきてくれた。ここで焼いたパンですからと、バゲットとロールパンを差し入れてくれた。頑張ってください。そう言われると元気が出た。

閉店時間になり休憩所に移動しようと荷物を背負い、お礼を言って出ようとすると、今度は男性の店員さん(店長さん?)がこれをどうぞとパックに入ったおこわをくれた。

涙が出そうだった。なんでこんなに親切にしてくれるのだろう。僕は、何一つ返すことができないのに。何度頭を下げても足りない気がした。

休憩所は、狭く寒いテントとは違いとても快適だった。もらったパンはとてもおいしかった。ロールパンはほんのり甘く、小麦の味が良かった。バゲットは皮はしっかり焼かれて固く、でも中は柔らかかった。マーガリンを溶かし、乾燥にんにくを香りが出るまで炒め、それにつけて食べた。最高だった。

旅の中で受ける親切は本当に心に染みる。忘れることのない思い出となる。辛かったことや苦しかったことは忘れてしまうのに、それは旅が終わっても消えることはない。そんな思い出を、僕はこれまでの旅を含めたくさん心の中に持っている。

素敵なことだ。きっとそのひとつひとつが、僕の人生を豊かにしてくれていることだろう。

今日の歩行距離約20km。

写真1
朝の大渋滞。僕の方が早かった。

写真2
奥入瀬川には白鳥。冬だ。

写真3
もらった親切。お腹と同時に心も満たされる。

2 件のコメント:

  1. 先を急ぐ必要が
    なければ、歩き旅、の醍醐味みたいなもの
    そういうのもよいのではないでしょうか。
    ま、いろんなご事情もあることとは思いますが。

    なか~たさんの文章を読んでいて、
    あらためて、人の親切とか
    あたたかさというもの
    自然と出てくるもの、そういうものへの感謝の気持

    自分もおもいださせてもらいました。
    ついつい、忘れてしまうんです。

    楽しみにいつも拝見しております。はい^^

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  2. タイ象さん

    旅をしていると、本当に多くの方から親切にされます。
    とてもありがたいことです。

    でもその親切をその人に返せないのが辛いのです。
    それが旅というものなのでしょうが…

    だからその分を他の旅人に返していこうと思ってます。

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