2010年1月28日木曜日

歩27日目 青森県十和田市

天候 晴れ後曇り
気温 6時 1.0度
   15時 2.1度

4時00分。起床。休憩所の中で快適に目覚めた。外はかなり風があるが、休憩所内は当然無風。
昨日もらったおこわの朝食。寝袋の中で温めておいた。

6時30分。ありがとうございましたの置き手紙を書いて出発。すでに東の空は朝焼けが始まっている。昨日の天気予報では雨だったが、予報は予報ということらしい。嬉しい外れ。

少し早足で歩く。奥入瀬渓流まではまだかなり距離がある。どうせなら渓流沿いはのんびり歩きたい。
道は奥入瀬川と着かず離れず。川幅まだまだ広い。オオアカゲラが水面を滑るように飛んでいて、朝日で自分の影が長く伸びた。

対向車線を歩いていた。運悪く両方の車線から車が来て、対向車線側の大型ダンプは車が過ぎるまで停まってくれた。僕のすれすれを強引に走り去る大型もいるのだけど、わざわざ停まってくれたのは嬉しい。僕は運転手におじぎをした。ハンドルを握っていたおじさんは笑顔で応えてくれた。つい目の敵にする大型車だけど、人のいい運ちゃんもいるものだ。

しばらく歩くと先ほどのダンプが背後からやってきて話し掛けられた。
「どこまで行くんだ?」
「今日は十和田湖まで」
「十和田湖?どこから来たの?」
「北海道から」
「北海道!どこまで行くの?」
「鹿児島まで」
「鹿児島!そいつは大変だ」
おじさんは必ず僕の言葉を繰り返した。そして、これでも食って頑張れよ、とパンをくれた。ダッシュボードに置いてあったパンは温かかった。お礼を言うと、手を振って走り去っていった。

その後も何度かそのおじさんとすれ違った。どうやら工事現場の砂を、ピストンで搬出しているようだ。すれ違う度にお互い手を振った。

9時50分。十和田湖温泉到着。もうすぐ奥入瀬渓流。
今度は違うダンプから缶コーヒーをもらった。
「風邪引かないようにな」
そう言って手渡してくれた。お礼を言うと、また笑顔で走り去っていった。

11時00分。奥入瀬渓流到着。道の両脇に山が迫り、林の中を歩くようになった。すぐ隣に川幅を狭めた奥入瀬川があって、2本の線は山あいを寄り添うように続いていた。
空は所々青空で、日も差してくる。運が良かった。雨の奥入瀬も乙なものだが、晴れた方がいいに決まっている。

冬の奥入瀬は、一年で最も静かな時を迎えていた。歩きを止めると、渓流のせせらぎと鳥のさえずりだけがあった。川面から出た岩はどれも雪の綿帽子をかぶっていて、滝は氷柱を作っていた。雪景色。泣ける風景だった。真冬のオロロンラインとはまた違う感動だった。鳥肌がたった。僕は、「冬の奥入瀬」と言った彼女に心から感謝した。

ゆっくりと歩いた。見飽きることはく、足早に過ぎるにはもったいなかった。
ひとりの女の子が僕の先を歩いていた。こんな冬にめずらしいな。自分のことは棚に上げて思った。カメラを構えていた彼女を、挨拶を交わす程度で追い越した。彼女もひとり旅を楽しんでいるようだった。

渓流沿いで昼食にした。冷たいサンドイッチだけど、こんな景色の中で食べるなら言うことはない。

14時20分。奥入瀬渓流を終え、十和田湖に出た。あと11kmで目的地の休屋(やすみやという地名)だ。なんとか暗くなる前に着きそうだ。それにしても湖畔は風がすごい。一旦トイレに避難する。
すると僕の後を歩いてきた女の子もやってきた。風をしのげる場所はここしかないのだ。
「バスで戻るんですか?」
僕は聞いてみた。すると彼女は首をかしげ、考えてしまった。なにか言葉を探しているようだった。そして手に持っていたバスの時刻表を指差した。
彼女は、日本人ではなかった。顔が似ていてわからなかったのだ。日本語はあまり話せないようなので、英語で会話をした。
「どこらか来たの?」
「香港よ。あなたは?」
「僕は日本人だよ」
「それは知ってるわ」
「そうか…」
ふたりで笑った。
彼女の乗るバスはまだ1時間待たなければいけなかったが、僕にはあまり時間がない。女の子ひとりトイレに残すのは忍びないが、出発する事にした。
「もう行かないと」
「どこまで行くの?」
「あと10kmは歩くよ」
「10km!」
彼女はその距離に驚いていた。良い旅を。お互いそう言って別れた。

十和田湖の湖畔を周遊する道を歩く。眺めが良く、車もない。快調に歩を進めるが、目的地の休屋までにはひとつ峠を越えなければならなかった。苦しい峠を下ると、休屋の町に入った。17時前だった。
乙女の像を見に行く。以前にも訪れたことがあるが、その時は夏で、観光客がたくさんいた。土産屋も忙しそうにしていたが、今はどの店も固くシャッターを下ろし、閑散としていた。
あわよくば十和田湖畔でテントなんて考えていたが、強烈な風がそれを許してはくれなかった。仕方なく閉鎖中の土産屋の軒下を借りた。明日は朝から雨予報。軒下なら撤収も楽である。
明日は発荷峠を越え、秋田県の鹿角までの予定だ。

今日の歩行距離約38km。

写真1
朝日に照らされて。

写真2
奥入瀬的風景。雪の綿帽子。

写真3
乙女の像は十和田湖のシンボル。誰もいなかった。

2 件のコメント:

  1. 休屋まで着いたのですね。自転車で何回か十和田湖には行ったことありますが、それを徒歩とは…。
    「いちゃりばちょーでぇ」好きな沖縄の言葉です。鹿児島まで遠いですが、頑張って下さい。
    道の駅一店員より

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  2. コメントありがとうございます!
    ブログ見てくれたんですね。

    あの日は本当にありがとうございました。とても快適でした。テントの毎日から比べたら、電気もあるトイレもあるで、まるでホテルに泊まっているかのようでした。

    皆さんのおかげで今日もまた歩けています。

    お仕事頑張ってください。

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