2010年1月29日金曜日

歩28日目 秋田県鹿角市

天候 雨→みぞれ→雪後晴れ後曇り

気温 6時 3.8度
   14時 0.0度

旅は、人の心を浄化する。

誰かがそんなことを言ったかもしれない。それは僕かもしれない。

4時20分。起床。3日間乾かし続けているタオルは、未だ濡れたままだった。この気温ではいくら干しても無意味に感じる。

雨だ。夜中の激しい風は、きっと雨雲を運んできたのだろう。軒下にテントを張ったから雨の音はしなかったが、外に出てみると雨らしい雨だった。十和田湖を囲む山々も雨に打たれ白く煙っていた。

7時00分。気温は高い。グローブ無しでもテントの撤収ができる。軒下効果でテントは濡れていない。カッパを着こんで出発。

8時30分。これから発荷峠というところで休憩。朝の5時に朝食を食べてしまい、すでに空腹感を感じ始めたのでサンドイッチを食べる。エネルギーを補給しないと坂道は登れない。
峠を登るにつれ、雨は次第にみぞれに変わり、ついには雪に変わった。山の木々は白で覆われていた。

峠では工事が行われていて、息を切らしながら登っている僕に皆がどこまで行くんだ?頑張れよ!の声をかけてくれた。

10時00分。発荷峠のピークに到着。1時間半の登りだった。ここからやっと下り。スピードを上げる。

しばらく歩くと一台のパトカーが停まった。運転席からおまわりさんが下りてきて、
「どこまで行くんだ?」
と聞いてきた。
「鹿角の町まで」
と僕。するとおまわりさんは、
「遠いぞ」
て言って後部座席のドアを開けた。
「乗れ」
ひょっとしたら職務質問かな?そう思った。面倒は起こしたくないが、それ自体が面倒だ。おまわりさんは尚も乗れと言い、僕の右腕を掴んできた。僕は、反射的にそれを振りほどいた。
「歩いて旅をしているんです。北海道からずっと」
そう説明した。
「いいのか?本当に遠いぞ」
「大丈夫です」
「そうか。わかった。遠いけど頑張ってな」
おまわりさんは笑顔でそう言った。全ては親切からの行動だった。僕の腕を掴んだその手も、実は優しさからのものだった。
僕は、それを振りほどいてしまった。自分の行動に反省した。
おまわりさんはパトカーに乗り込むと、クラクションを一度だけ短く鳴らし、スピーカーを通して
「頑張ってな」
とやった。かなり大きな音だったので僕は驚いてしまった。そして他に誰か居るわけでもないのに恥ずかしくなった。でも嬉しかった。走り去るパトカーに手を振ることができた。

11時00分。峠を下り、神社で休憩。雪は、また雨に変わっていた。

12時15分。一台の車が僕の背後からやってきてすぐ脇に停まった。あまりに至近距離だったので肝を冷やした。運転手が手に缶コーヒーを持っている。
「鹿角まで頑張れよ」
その男性はそう言うとあっという間に発進してしまった。僕は間に合うようにとありがとうございますと叫んだ。手には温かい缶コーヒーが残っていた。
作業服を着たその男性は、峠で工事をしていたひとりだったのだろう。かじかんだ指先を缶コーヒーで暖め、一気に飲み干した。嬉しくて涙が出そうだった。

14時00分。大湯の温泉地に到着。小さな川に架かった橋の歩道に入ろうとした時だ。短いクラクションが2度、鳴った。見ると峠のおまわりさんだった。僕は反射的に手を振った。笑顔でそれに応えてくれた。スピーカーは、なかった。
まぁな、さすがに町中だしな、なんてひとり思っては可笑しくなった。橋を渡り切ったところでパトカーがまた現れた。おまわりさんはチョコレートをくれた。鹿角の道の駅までの近道も教えてくれた。
「頑張ってな」
峠と同じようにそう言って去っていった。

一体なんなんだ。

僕が何をしたというのだ。ただひとりで歩いているだけだというのに!ただ好きで歩いているだけだというのに!

喉の奥がつまった。嬉しさと感謝の気持ちがこみあげてきて、目頭が熱くなった。と同時に、さみしさも感じた。それは、この気持ちを直接返すことが出来ない事へのさみしさだった。一期一会。もう二度と会うことはないだろう。いくら僕が感謝の気持ちを言葉にしても、もう彼らの耳には届かない。そう思うとさみしかった。

きっとこの気持ちは他の誰かに返すものなのだ。もし誰かが困っていたら、助けてあげること。もし誰かが頑張っていたら、応援してあげること。きっとそういうことなんだろう。
旅を通して僕の心は、あふれ出る泉の様に澄んだものになっていった。

もはや僕ひとりの旅ではないような気がした。応援してくれた人たちのためにも、なにがなんでも鹿児島まで歩かなければならない。そう思った。

14時30分。大湯の観光案内所で30分の休憩。大湯には共同浴場が3つあり、どれも150円だった。魅力的だがそんな時間はない。
今日はなんとしても鹿角の道の駅まで進みたかった。まだ15kmはあるだろうか。到着は19時を過ぎるだろう。気合いを入れて外に出てると、ありがたいことに晴れていた。

おまわりさんに教えてもらったルートで歩く。それは国道ではなく県道で、歩きやすかった。何度か休憩しながらやっと道の駅に到着した時にはもう真っ暗だった。19時30分だった。

ブログを書き、21時になって、今日も軒下にテントを張る。明日も峠を越えて長い距離を歩かなければならない。今日の雨でブーツがずぶ濡れになってしまったのが痛い。なんとか2、3日で乾いてくれればいいのだが。

今日の歩行距離約43km。

写真1
雪の発荷越え。足元が滑って体力を奪う。

写真2
発荷のピークから。十和田湖はぼんやりと湖岸が見える。

写真3
雨上がる。つかの間の太陽。

4 件のコメント:

  1. 僕も、そういう風にさっと
    手を差し伸べられるようになりたいものです。

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  2. ランボーみたいになるかと思ったよ。お尋ね者には容赦ないからな。鹿角で戦闘!!みたいな~~

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  3. KXさん

    いやいや、優しい歌が届きましたから~
    ありがたやありがたや。

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  4. ランボーって…
    僕はいつだって友好的なのです。

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