7時。出発準備をしていると、雨はあがってくれた。路面はまだ濡れたままだが雨が降っていなければ良かった。これでなんとかニカラグアを出られそうだ。
国境までは一本道だ。大きなニカラグア湖をかすめながら曇天にかすむオメテペ島を眺め、一気に100km先の国境へと走った。何のトラブルもなく、予定より少し早く到着することができた。
日本の援助で立てられた橋。
中米ではこういったものをよく見かけた。
曇天のニカラグア湖とオメテペ島。
国境のバス・ターミナル。
すべての出国手続きを終え、ポケットにあまっていたコインでパンを買い、バイクの脇に座り食べていた。そのときの僕はなんとも清々しい気分だった。グアテマラで過ごした珠玉の日々が、目に見えない小さな重しとなって幾重にも肩にのしかかっているようだったが、たった今、それらから解き放たれたのだ。これで時間に追われることなく走ることができる。そう思うと目の前がぱっと明るくなる気がした。
目にもまぶしい鮮やかなオレンジのバイクが、太い排気音と共に目の前に止まったのはそのときだった。サイド・カー付きだった。
(サイド・カーとは珍しいな)
バイクに乗った男は欧米人らしく武骨な体格をしていて、ヘルメットを抜ぐとスキンヘッドのかなりいかつい感じだった。怖そうな面持ちに最初は話しかけるのを躊躇したが、そのナンバープレートを見て思わず尋ねてしまった。
「アラスカから来たの?」
「One drive(一気走りさ)」
バイクから降りた彼はそう言った。
さらに、その(君と同じくらいいかつい)バイクの排気量はいくつなの?と聞くと、
「seven-fifty(750cc)」
と答え、なぜかその後に
「setecientos-quince(セテシエントス-キンセ)」
とスペイン語で言い直した。英語で会話をしていたのに、なぜいきなりスペイン語になったかわからなかったが、quince(キンセ)は15で、50ならばcincuenta(シンクエンタ)である。
「setecientos-cincuenta(セテシエントス-シンクエンタ)」
僕が言い正すと、ああそれだ!といった感じでそれまでの強面を一瞬にして崩し、とても人懐こそうな笑顔を浮かべた。急に親近感がわいた。
彼もこれからニカラグアを出てコスタリカへ向かうらしい。
「どこで手続きをすればいい?」
「ここがイミグレーション。で、あっちに税関がある」
そう教えると彼は礼を言い、イミグレーションへと消えていった。
サイド・カーとは古風だな。
見届けた僕は、パンを食べ終え、残ったコーヒーを飲み干し、ヘルメットをハンドルにかけたまま、コスタリカ側国境へとゆっくりバイクを走らせた。
つづく。
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