2012年9月8日土曜日

グラナダ vol.1

レオンを後にした僕はグラナダを目指した。グラナダはレオン同様ニカラグアでは押しも押されぬ観光地である。貧乏旅行の僕が観光地に行ったところで何をするわけでもないが、レオンからコスタリカへ抜けるにはちょうど良い距離にグラナダがあった。

パンアメリカン・ハイウェイを東へと走る。道はほぼ一本で、マナグア、マサヤと過ぎれば150kmほどでグラナダに到着した。さほど大きな町ではないし、早い時間に到着できたので、ホテル探しも大変ではない。安いシングル(150コルドバ)が見つかったのだが、探す途中、ひとりの少年が一緒になってホテル探しを手伝ってくれた。僕はバイク移動だったのでどうしても彼を途中で置き去りにする形になってしまったのだけど、きっと駄賃をねだるために走り回ってくれたのだろう。手伝ってくれと頼んだわけではないが、一生懸命走り回る姿はとてもけなげで、なんだか悪いことをした気分になった。

荷物を入れたホテルは安いといっても環境はすこぶる良かった。広い部屋をあてがわれたし、バイクも中庭に入れられたし、なによりキッチンと冷蔵庫を使わせてもらえたのが良かった。ユースやゲストハウスならわかるが、普通のホテルでキッチンと冷蔵庫はなかなかない。これでいつでも冷えたビールが飲めるし、コーヒーも入れられるし、飯だって作ることが出来る。

ホテルを経営する一家はきさくだった。特に女主人はとても品のある女性で、すらりとした立ち姿は美しく、派手ではないがセンスの良いアクセサリーをを身につけ、いつも長いスカートをひらめかせていた。朝には温かいコーヒーまで入れてくれた。
コーヒーは薄めの味だったが、それでもちゃんとコーヒーの味がした。他の中米諸国同様、豆と水を一緒に鍋に入れ煮出す方法には変わりないが、グアテマラの麦茶のようなものとは別物だった。果たして一般家庭がすべてなのか分からないが、少なくともここの家族はまともなものを飲んでいるようだ。

唯一難点といえば、夜が寝苦しかったことだ。日中は決まって30度を超える気温も夜になると涼しくなるのだが、熱をたっぷりと溜め込んだ部屋の中は一向に涼しくならず、ファンを止めて寝ているとじっとりを汗をかく。しかしファンをまわすとこれまた偉い勢いでまわり始め、うるさい。どちらを取っても寝苦しかった。

 良い宿だった。

グラナダのカテドラル。

 ツーリストエリア。

メルカド。

ある日グラナダの町を日中のんびりと散歩していると、ホテル探しを手伝ってくれた少年とばったり出くわした。

「ありがとう。おかげで良いホテルが見つかったよ」

少年は自分の手柄だと言わんばかりにうなずくと、得意げに鼻を鳴らした。そしてパンを買いたいから1コルドバをくれ、と手を差し出してきた。僕は、走り回ってくれたお礼にと、手のひらに1枚のコインを乗せた。日本円にして4円にも満たない金を、少年は実にうれしそうに受け取り、どこかへ走り去っていった。

そのままソカロ付近のツーリストエリアからメルカドへと散歩した。
ツーリストエリアは実に小奇麗で、メルカドはどこか小便臭い。だけどその国の本当の姿が見られるような気がして、僕はどの町でもメルカドに足を向ける。

清潔感のまるでない露店が所狭しと並ぶ様も、肉屋のなんとも言えないすえた匂いも、威勢のいい売り子の掛け声も、今ではすっかり見慣れた光景となった。先進国から第三世界に入ったとき、その不潔さと鼻を突くにおいに、なんだこれは、などと顔をしかめたものだが、多くを見てきたからだろう、これがこの国の生活なのであり、慣れれば愛着の一要素となる。

ボロ切れのようなシャツから汚れて真っ黒な手を突き出し、小銭や飴玉をせがんでくる子供たちも、片腕のない老人が往来の激しい道ばたで倒れたように眠っていても、もはや動じることはなくなった。結局のところ、幸も不幸もすべてが渾然一体となって、人々の生活がたくましくここに根ざしていると感じるようになったのだ。

つづく。

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