2010年4月1日木曜日

歩90日目 大分県大分市

天候 曇りのち晴れのち雨
気温 7時 8.4度
   17時 13.1度

「こちらは改装したてですから、新しいのがよければおすすめです。で、こちらは古くからやってますから、情緒を楽しみたいならおすすめです」

そう言われたら、あなたはどちらを選ぶ?

温泉の話だ。別府に到着した僕は、駅の観光案内所にいた。温泉の場所を聞いていたのだ。目の前にいるお姉さんは、地図にふたつ丸を書き加えながらそう説明してくれた。

4時30分。起床。いつもより早めに起きた。明るくなる前にすべて片付けておかなければならない。朝食を食べたらすぐに片付けにかかった。5時過ぎに電車の音がした。駅には停まらず、長い通過音だったからきっと貨物列車だろう。徐々に空が白みはじめた。なんとか6時前には撤収が完了した。

6時30分。駅の待合室でしばらく休憩してから出発した。今日は一面の曇り空。雨は大丈夫だろうか。明日から天気は下り坂だという。前回雨に濡れたのはいつだっけ?まだ山陰を歩いていた頃だ。最近は雨に当たっていない。幸運なことだ。

9時20分。赤松峠を下ると別府の町が見えた。鈍色の海を抱え込むように左に大きくカーブしている湾があり、町はそこにへばりつくようにあった。背後には背の高い山々が見える。あれを越えれば由布院に着く。
湾の向こう岸には、乳白色の幕に包まれたように大分の市街地がうっすらと見えた。高い建築物があり、まるで洋上の要塞だ。
今日、僕はあそこまで歩く。遠い。海の向こうに霞んで見える町は、遥か遠くに感じる。ぐるりと海をまわりこむように、これから僕が歩くべき道が続いていた。

11時00分。青空になった。気温は14度。日差しも強い。たまらず上着を脱ぐ。吹き抜ける潮風が心地良い。Tシャツになったのは久しぶりだ。九州に入ったら暖かいだろうと思っていたのだが、寒い日が続いていてなかなかTシャツにはなれないでいた。やっと春らしくなったようだ。

13時30分。別府駅に到着した。観光案内所に入る。カウンターにいたお姉さんに温泉の場所を尋ねると、とても親切に教えてくれた。
駅の近くにはみっつあった。しかしひとつは以前に入った事があり、なので残りのふたつでどちらがおすすめかを聞いた。お姉さんは少し考えたあと、実に的確なアドバイスをくれた。僕は、迷わず情緒を選んだ。

14時00分。情緒ある温泉に到着した。そこは、竹瓦温泉という本当に情緒溢れる温泉だった。外観からしてすてきだったが、中はさらにすてきだった。明治12年創業で、現在の建物は昭和13年に造られたという。
入浴料の100円を払い、湯に浸かる。いい湯だ。とてもいい。浴室の天井が見上げるほど高く、雰囲気も最高だ。もちろんシャワーなんてない。昔からの風呂屋にそんなものはない。桶ひとつで十分なのだ。

ゆっくりと温まり、休憩所でくつろぐと、時計は16時近くまで回っていた。しかし、僕はなかなかそこから立ち上がれずにいた。いつの間にか雨が降っていたのだ。いくら待てども雨はやまず、仕方なくカッパを着て外に出た。すでに16時20分になっていた。

強くはないが決してやむことのない雨は、しっとりと全ての物を濡らしていた。もちろん僕もその中のひとつ。徐々に近づく大分の町を見つめながら、海沿いの道をひたすら歩いた。

18時20分。要塞の様に見えた町に入った。明日の事を考えると少しでも先に進みたい。しかしこの雨では屋根が欲しいところだ。とりあえず地図で目星を付けておいたが、実際には行ってみないとわからない。最悪橋の下でも仕方ない。

20時00分。候補の運動公園に到着した。ぐるりと見てまわる。予感は的中。いいあずまやがあった。十分テントを張れる。よしよしやったぞ。そう思い近づこうとして、やめた。なぜならそこには恋人達が肩を寄せ合って愛をささやいていたからだ。
なんてことだ!
これじゃあとても近付けない。僕は、ただ指をくわえて見ているしかなかった。

とにかくだ。考えよう。まずここに突っ立っていても仕方ない。そうだな。コンビニに行ってビールでも買ってこよう。ゆっくり戻ってくれば、もう居なくなってるかもしれない。

甘かった。そう簡単に愛のささやきは終わらない。どうしたものか。僕は疲れているし腹も減ったしこんな時間だし早く休みたいのだが、テントを張るからちょっとそこをどいてくれないか、なんて事はとても言えない。雨の日のあずまやの使い方として、正しいのは僕じゃなく彼らの方なのだ。
だからといって今から他を探すわけにもいかない。とにかく僕は、彼らがささやき疲れるのを待つしかなかった。

21時50分。やっとささやき疲れたようだ。空いたあずまやに素早くテントを張る。10分で全て完了した。手慣れたものだ。
すぐに夕食をる。せっかくのビールはもう冷たくなかったけど、飲み終わる頃には強烈な睡魔に襲われていた。まぶたを閉じればすぐにでも夢の世界へ引きずり込まれそうだった。必死の思いで歯を磨き、誘われるがままに寝袋に包まると、安堵のため息と共にトーチのスイッチを消した。

今日の歩行距離約41km。

写真1
日出(ひじ)の町から別府を望む。峠を越えたらこの景色。

写真2
こちらは情緒を楽しみたい方おすすめとなっています。入浴料は衝撃の100円。価格破壊。

写真3
要塞への入り口。司令塔は、恋人達による甘く強固な守り。

4 件のコメント:

  1. まいこはん2010年4月1日 15:27

    竹瓦温泉うちも行ったで!
    いいよね~!
    ちょっとタイムスリップした感じに
    なるもんね。温度も熱めで好みやったわ。

    返信削除
  2. 別府周辺は安い温泉が多くていいですよね。
    夏に別府行った時は街全体が温泉の湿気でより暑く溶けるかと思ったことがありました。
    大分は鳥天や唐揚げも有名ですが、魚もおいしかったです。

    返信削除
  3. まいこはん

    竹瓦温泉いいよね!!
    かなりお気に入りになりました。

    あーまた入りに行きたいな。

    返信削除
  4. kitaQさん

    別府いいですよね。古くからの温泉地は魅力的です。

    山は富士
    海は瀬戸内
    湯は別府

    だそうです!

    返信削除