2010年4月7日水曜日

歩96日目 鹿児島県鹿屋市

天候 晴れのち雨
気温 7時 10.3度
   17時 22.9度

僕は翼をひろげてるだろうか?

ふたりを初めて見たのは夏の事だった。去年の夏。場所は青森。ねぶた祭のキャンプ場での事だ。

とにかく目立っていた。何せ人力車だ。日本一周と大きく書かれた垂れ幕を付けた人力車。そこに法被の男女がふたり。目立たない訳がない。

その時の僕は、また変わった旅人がいるなと感心したが、特に話をした訳でもなく横目に眺めるだけだった。(旅人はとかく変わっているものだ)
その人力車が今、山道の向こうからやってくる。一目で思い出した。あの時のふたりだと。

まさか去年の夏に青森で見かけたふたりを、今日鹿児島の山中で見つけるとは思わなかった。
僕は声をかけた。
「ねぶた祭にいましたよね?」
ふたりは驚いた顔をして、そして喜んでくれた。もちろんふたりは僕を知らない。話もしていないし、僕が横目に見ただけなのだから。

不思議な再会だった。青森と鹿児島。夏と春。その差を飛び越え、こうして出会う。旅とは不思議なものだ。

ふたりから一枚の紙をもらった。そこには旅のタイトルやコンセプト、ふたりのプロフィールが書かれていた。その中に
「翼ひろげてる?」
という文字があった。その言葉は僕の心の中の秘密な部分に、とげの様に刺さった。

翼。
僕は今でも翼をひろげてるだろうか?

4時40分。起床。朝もやの中にいた。テントの外は物凄い朝もやだった。視界は20mほどしか効かず、テントはびしょ濡れだった。

6時30分。濡れたテントをポリ袋に入れ、まだ晴れぬ朝もやの中を出発。しかし朝もやが出ると言うことは太陽も顔を出すはずだ。気温が上がったらテントを干さなければならない。霞んで先の見えない道を、僕は南へと歩きだした。

8時30分。コンビニに立ち寄る。現在地を地図で確認する。もうすでに鹿児島に入っているようだった。気付かなかった。標識を見落としたか、存在しなかったか。まぁ良い。僕はついに鹿児島までやってきたのだ。
俯瞰すれば、都城から国道269号はほぼ直接的に佐多町まで続いている。鹿屋を抜け、明日の夕方には国道の終点にある佐多町の伊座敷まで到着しているだろう。

9時20分。
「どこまで歩くんだい?」
おじさんに声をかけられた。缶コーヒーを3本も頂く。その内の1本を飲み干す。朝もやもすっかり消え去り、照りつける太陽に汗をかき始めていた頃なので、冷たく甘い缶コーヒーはとてもおいしかった。

10時00分。
「ちょっと待って!」
歩道を快調に飛ばしている時に、いきなり後ろから呼び止められた。
「飲まんね?」
ひとりのおばさんが小走りにやってきて、缶ジュースとみかんを差し出してくれた。
「さっき見かけてね」
そう言って僕に手渡す。
「毒は入ってないから」
笑顔が温かい。お礼を言って有り難く頂戴した。

10時30分。大隅の道の駅に到着。その頃には日も高くなり、気温も上がっていた。何しろ歩いていて汗が吹き出すほどだ。芝生の上にテントを乾かす。ついでにマット、寝袋、カッパ、タオル、靴下、パンツ。およそ乾かせるものは全て乾かした。これだけ暑いと乾くのも一瞬だ。

13時00分。志布志市に入った。ゆるいカーブを右に曲がると、目の前に高隈山がそびえていた。なかなか迫力がある。歩くほどに見る角度を変え、違う表情を見せるのがいい。

それにしても暑い。25度はあるだろう。汗が吹き出す。歩きの旅も冬は冬で大変だが、夏に旅するのも大変だ。飲み水は絶やせない。荷物の中でなにが重いって、飲み水が一番重いのだ。苦労する。
しかしこう暑いと夏を感じてしまう。なんたって北海道との差が40度近くもあるのだ。わずか3ヶ月の歩きでこの気温差を味わうのだから、日本はいかに南北に長いかという事だ。
吹き出た汗を、神社の水場で流す。顔を洗い、腕を流す。その時、袖をまくって驚いた。くっきりと日焼けをしていたのだ。まさかこの旅途中で日焼けをするとは。本当に夏を感じてしまう。

16時00分。峠の途中で鹿屋市に入る。中心部まではあと14km。到着は20時近くになるだろう。
ピークを過ぎ、下り坂で今晩の竹の子を掘っている時、ふたりに会った。人力車のふたりだ。道端で少し話す。仲の良さそうなふたり。歩いて日本一周。羨ましい。
竹の子と、みかんとりんごを物々交換した。僕は掘った竹の子で申し訳ないと思ったが、
「いいの。これも貰い物だから」
そう言って笑っていた。

20時20分。鹿屋市内の公園に到着。少し雨が降っている。急いで屋根の下にテントを張った。中に入り、荷物を配置し終えたところで雨は本降りになる。間一髪間に合った。予報よりも早い降りだしだ。

テントの中でパスタを茹でながら、僕は人力車のふたりを思った。彼らは今頃どうしているだろう。夕方に峠の入り口にいた。どこに寝るのだろう。テントにしても、張れそうな場所などない。あまつさえ雨だ。大丈夫だろうか。

そう思ったが、人の心配をしても仕方ない。彼らにしても長く旅をしているのだ。それなりの考えはあるだろう。
マーガリンで炒めた竹の子、にんにく、鷹の爪を茹でたパスタにからませながら、僕は一向にやみそうにない雨音に耳を傾けていた。

今日の歩行距離約54km。

写真1
朝もやの中を歩く。太陽がまるで月の様。

写真2
ついに佐多の文字。鹿児島に入った。

写真3
翼ひろげてる?

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