2010年4月6日火曜日

歩95日目 宮崎県都城市

天候 雨のち晴れ
気温 7時 14.1度
   17時 19.8度

「細過ぎて気持ち悪いで」
旅仲間の女の子からはそう言われた。

「skinny!」
外国人の友人からはそう驚かれた。

いいさ。何だっていい。それは今の僕にとってとても大切で、とても頼もしい存在なのだから。

日がすっかり落ちた18時過ぎ。スーパーマーケットのベンチに腰掛けながら、僕は自分の足をさすっていた。手の平の中にあるそれは、細く骨と皮ばかりの太ももだった。

その時点で48km歩いていた。出発してから11時間とちょっと。かなりのハイペースだ。しかも峠を越えての結果である。

50kmを12時間で歩こうと試みたのはいつだっけ?あれは宮城の時だったか。まだ2月の頭だ。試みはなんとか成功したのだけど、その時の代償は大きかった。
50km歩いた先の道の駅には、足を引きずりながら辿り着いた。足のマメが痛く、もう半泣きだったのを覚えている。あの時の僕にとって50kmという距離はひとつの壁だった。それは間違いない。

あれから2ヶ月。その距離は、それほど困難なものではなくなっていた。確かにあの時は買ったばかりの靴だったし、荷物も冬装備を積んでいたから重かった。それでもその条件を考慮しても、今では50kmくらいならと思えてしまう。

あの時よりも一回り太くなったふくらはぎと、気持ち悪い位に細くなった太ももが、それを可能にしたのだ。そう思うと改めて日々の積み重ねの大切さに気付かされる。

6時00分。起床。やはり雨が降っている。あれは夜中の2時頃だったか。一度目が覚めた時にはもうすでに降っていた。橋の下を選んで良かったと安心して夢の中に戻ったのだが、起きてなお降り続いているのだからカッパは避けられないだろう。雨に降られながらの撤収ではないのでまだましだが、果たして予報通り午後からは晴れるのだろうか。遠くに聞こえるひばりの鳴き声だけが希望だった。

起きるのが遅かったので急いで支度をした。コーヒーだけは入れて、夜のうちに作っておいたサンドイッチを流し込む。もう外は明るい。

6時50分。小雨の降る中を慌ただしく出発。昨日の遅れも上乗せされ、今日は都城まで50kmは歩かなければならない。少しでも早く出なければいけなかった。

9時00分。清武の町を歩いている時、それを見つけた。竹の子だ。宮崎まで南下したおかげでかなり暖かくなっていたし、もう田植えが始まっているというのなら、きっと竹の子もあるだろうと思ったのだ。道すがら竹林を見かける度に目を光らせていた。そしてついに発見した。春の味覚。今晩のおかずはこれで決まりだ。

10時30分。田野を通過する。雨はまだやまない。道は峠に差し掛かる。車やバイクなででは峠とも言えない様な峠だ。でも歩きにとっては過酷なものとなって立ちはだかる。
今までいくつもの峠を越えてきた。マイナス10度の毛無も、雪の発荷も、一泊二日の箱根も、真夜中の鈴鹿も。だからこんな峠は楽勝なのだ。そう自分に言い聞かせ、今にも上がりそうなあごを気力で引き戻す。一歩づつ足を前に出す。

峠の下りに差し掛かった頃、ついに雨がやんだ。空が少しずつ、本当に少しずつ明るくなる。望む山々はどれも蒸気を立ち上らせ、それはさながら呼吸をしているようだった。
雨を吸い込んだ帽子のつばからは雫がしたたり落ちる。後ろで束ねた髪が濡れ、首筋をひやりとさせる。だけど靴の中まで濡らさずに済んだのは幸いだった。

14時10分。山之口の道の駅に到着。ベンチで休んでいるとまた霧雨が降り始めた。もう雨は無いと思っていただけに、なかなかしつこい雨雲にうんざりする。仕方ない。再度カッパの上だけを着て歩き出す。

峠を下りきり、山之口に到着すると完全に雨があがってくれた。雨雲が去り、青空が見えたのだ。やっと解放された。差し込む光に心が軽くなる。山々は黄金の緑に輝き、虹が架かった。

16時50分。一台の軽トラックに話し掛けられた。ご夫婦が乗っていて、いつもの様に旅の説明をすると、いつもの様に驚かれた。いつもの事だ。
それじゃあと一度は別れたはずなのに、僕の目の前にまた同じ軽トラックが停まった。なんだろう。運転席のおじさんが袋を手渡す。差し入れだった。僕は有り難く受け取る。そして中身を見て驚く。袋には甘乳蘇(かんにゅうそ)が入っていたからだ。

それは日向の道の駅で初めて知った食べ物だった。搾りたての牛乳を煮詰めて作るチーズのようなもので、物凄くおいしくて驚いた。さらに値段を見て驚いた。カマンベールで贅沢と言っている僕には到底手が出せる値段ではなかったのだ。

そんな物を差し入れてくれるなんて申し訳ない。そう思ったが、好意は受け取った方がいい。おじさんは、これは宮崎でしか作ってないし、体に良いから食べて元気を付けてよと言ってくれた。僕は何度もお礼を言いそれを受け取った。

18時20分。都城の市街地に到着。スーパーマーケットで買い物。約48kmは歩いたが、まだまだ余裕がある。やはりこの3ヶ月で体力、筋力とも向上しているようだ。

今日もまた大淀川を見た。川の近くの公園にテントを張ったのだ。川は、昨日とはその姿を変えていた。川幅はわずか数メートルしかなく、源流に近い事を教えてくれる。昨日見た河口近くのゆったりした流れとは対称的だ。

テントに入ると早速甘乳蘇をつまみに買ってきたワインを飲んだ。それはやはり物凄くおいしかった。
昼に取った竹の子は、茹でてから味噌マヨネーズで食べた。それはやはり春の味がした。
今日の夕食はいつになく贅沢なものとなった。食が満たされるというのは精神的に大変良い。僕は満ち足りた気持ちで寝袋に包まった。

今日の歩行距離約51km。

写真1
早朝の宮崎市内を。大淀川から。小雨。

写真2
雨に煙る山々。まるで水墨画の様。

写真3
春の味覚ゲット。今晩のおかず。

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