2010年4月9日金曜日

歩97日目 鹿児島県?郡南大隅

天候 雨のち張れ
気温 8時 16.4度
   17時 19.4度

「一緒に歩く?」
「うん」
「佐多岬まで?」
少年は、笑いながら首を横に振った。

リーチング佐多岬の14人目は、ひょんなことから決まってしまった。

5時30分。起床。雨は降り続いていた。こういう時の屋根の下は本当にありがたい。

6時50分。出発準備は完了したものの、すぐには出発しなかった。空模様を伺っていたのだ。もう少しで雨がやみそうだった。
バックパックから昨日もらったりんごとナイフを取出し、段差に腰掛け皮を剥く。大きなりんごだったが小さく切らずにそのままかじり付いた。

7時30分。雨が小降りになったのを確認してから出発。弱い雨なのでカッパは上だけにした。しかしそれもしばらく歩いて脱いでしまう。いくらゴアテックスと言えど、さすがに蒸れるのだ。汗をかくより少しくらい雨に濡れたほうが気持ちいい。

9時15分。鹿屋から海岸線へ抜ける峠を越える。下り坂を歩いていると、木々の間からちらりと海が見えた。薩摩半島と大隅半島に抱えられるようにある静かな海。錦江湾だった。少し歩くと目の前いっぱいに海が広がった。
ここまで来た。ついに。この海岸線を伝って行けば、行き着くところは佐多岬だ。僕はこの静かな海を見て、初めて旅の終わりを意識した。

9時30分。薄日が差してきた。これなら晴れそうだ。しかし対岸の薩摩半島は未だ雨雲に遮られて望めない。
今日も何人かの人と道すがら話をした。自家製の紅茶をくれた人もいた。
「頑張って」
たったその一言だけを残し笑顔で車を走らせたお姉さんもいた。皆温かい。
それにしても鹿児島の人は北海道と聞いてどう感じるのだろう。歩いて来た僕にとってはひとつなぎの土地に感じるが、それは遥か遠い国なのだろうか。

12時30分。大根占に到着。青空が出てきた。日差しが嬉しい。さっきまで見えなかった対岸は、うっすらとだが確かに存在していた。大型のタンカーが静かに進んでいる。錦江湾はいつだって穏やかだ。その先には開聞岳。きれいなシルエットには目を奪われる。

「何年生?」
僕は、後ろから付いてくる少年に話し掛けた。
「5年」
少年は答える。学校帰りだろうか。少年はいつの間にか僕の後を追って来ていた。家がこの先にあるのだろう。僕らは並んで歩く事にした。
「全校で何人いるの?」
「14人」
「5年生は?」
「6人」
「5年生多いね。担任の先生は男?女?」
「男」
「ところで好きな子いるの?」
「…」
「あ、いるんだ?」
「知らない」
実に素直な少年だ。心が澄んでいる。
「お兄さんね、北海道から歩いてきたんだ」
「北海道?」
少年はその言葉の意味を理解出来なかった様だ。
「それも明日終わるんだ」
「ふーん」
いつの間にか僕は少年にそんな話をしていた。子供相手に何を話しているんだか。そう思ったが、邪推なく心のままに聞いてくれる子供だからこそ話せたのかも知れない。その思いを言葉にして誰かに聞いてもらうだけで良かったのだ。

少年の家に到着し、じゃあねと別れた。気持ちの良い少年だ。何か胸の支えが取れたようないい気分だった。僕は、きっと誰かに聞いてほしかったのだ。この旅が明日終わってしまうという事を。

18時20分。佐多町の伊座敷に到着した。小さな港町だ。高台から眺める町は全体が夕陽に染まり、空気が柔らかかった。今日はこの町で最後の夜を過ごす。ここから岬までは20kmしかない。明日の午前中には到着出来るだろう。

港の岸壁を背にテントを張った。少し風が出ていたのだ。町に唯一あるスーパーマーケットで買ってきた夕食を食べる。空にはきれいな星が出ていた。明日はきっと晴れるだろう。
夜が深まるにつれ、僕の心は錦江湾の様に穏やかになっていった。打ち寄せる波の音とテントをすり抜ける風の音を聞きながら、安らかな気持ちで寝袋に包まった。

今日の歩行距離約41km。

写真1
錦江湾はいつだって穏やかだ。

写真2
ここまで来るとバナナも自生する。気候が違う。

写真3
リーチング佐多岬の14人目。澄んだ心。

2 件のコメント:

  1. ご無沙汰しております。
    さすがに、気温、ずいぶんと暖かいですね〜
    なんか、もうゴール間近って、
    どういうお気持ちになるんでしょうね。

    五年生の彼の心の片隅に、きっと
    なか〜たさんの言葉が刻まれているんだろうな。

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  2. タイ象さん

    ご無沙汰です!笑
    少年との時間はとても印象に残っています。
    本当にいい子でした。

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