2010年4月5日月曜日

歩94日目 宮崎県宮崎市

天候 曇り
気温 6時 10.4度
   17時 18.0度

彼は、今頃どこを走っているのだろう?

ぬるめの露天風呂に首までどっぷりと浸かり、ねずみ色の空をぼんやり見上げながら、そんな事を考えていた。

彼とはもちろんあの彼の事だ。自転車で旅をしている、山陰で出会った彼。彼も今頃九州のどこかを旅している。きっと僕よりもずっと先に九州入りしているはずだ。

その後のルートは分からない。西へ行ったか、東へ行ったか。山に海に温泉に。九州は見所がたくさんで、どこを走ってもきっと楽しい事だろう。

またどこかで会えるかな?
会えたらいいな。

僕はそう思う。それは温泉に浸かりながら。海沿いの道を歩きながら。寝袋に包まりながら。そう思う。
もし彼も同じように思ってくれているなら、それはすてきな事だ。彼は今、荷物を満載にした自転車でどこを走っているのだろう。

5時30分。起床。満開の桜の下で目を覚ます。テントから首だけ出すと、やはり見事な桜が目に映った。朝から気分がいい。

それにしても日本人はつくづく桜が好きだと思う。嫌いだという人を、僕はまだ見たことがない。
なぜだろう。きれいだからだろうか。もちろんだ。しかし、それだけではない。僕は、その儚さに理由があるのではないかと思う。厳しい冬が終わり、春の訪れと共に桜は開花する。見事なまでに咲き誇る。しかし、それはほんの一瞬でしかない。まるで生き急ぐかの如く、実に儚く散ってしまう。盛衰。きっとその姿が日本人の心を打つのではないだろうか。

7時20分。テントをたたみ、荷物をまとめ、ゴミを残さず、最後にそっとありがとうございましたとつぶやく。出発。

9時10分。高鍋町を通過。最近はとても暖かい。歩き出して日が昇るとすぐにTシャツになる。それでもまだ暑いと、ズボンの裾を膝まで捲り上げる。今日も午前中からすでに20度近い。20度と言えば北海道なら初夏だ。北から南へ。季節の移ろいを楽しんでいる。

12時00分。日向大橋を渡る。河口が近く、川は海の色をしていた。
すぐに佐土原の町に着く。スーパーマーケットで昼食。バナナが食べたくなって買ってしまうが、それはとても重いのでその場で一気に食べる事になる。今日も3本食べた。行動食としてバナナは最高なのだけど、買った時はいつも決まってバナナ腹になる。

そろそろ風呂に入りたかった。宮崎の市街地を通る時うまく見つかれば入ろう。もし見つからなくても明日都城でまた探せばいい。そう考えていた。しかし国道添いにふと温泉を見つけてしまった。
まだ14時半だ。一生懸命歩かなければならない時間である。歩行距離は30kmにも到達していなかったし、明るい時間に入ってしまうのはもったいない気がした。
しかし昼風呂も気持ちいい。なにより贅沢だ。歩道に立ち、しばらく腕組みをして考え込んでしまったが、この先うまく風呂が見つかるとも限らない。結局誘惑には勝てずに足を向けた。

ぬるめの露天風呂に首まで浸かる。自然とため息。癒される。露天風呂から見上げる空はねずみ色で、まるで雨の訪れを予言しているようだった。明日はカッパか。仕方ない。まぁ今から心配しても損だ。今はゆっくり温まろう。

18時00分。湯上がりの火照った体を町の風で涼ませる。風呂上がりの外出は気持ちがいい。気付けば宮崎の市街地に入ったようだ。道幅が広くなり、店が増え、マンションが立ち並んでいる。標識にはついに鹿児島の文字。距離は130。やっと捉えた。鹿児島市があるのは薩摩半島で、目指す佐多岬は大隅半島にあるのだけど、鹿児島の文字を見るのは単純に嬉しい事だった。

18時20分。空が明るさを失いつつあり、町の明かりが灯り始めた頃、山形屋の交差点を左に折れた。国道10号にならうとそういう事だった。が、僕はまたすぐに右に曲がった。都城まで国道269号を選んだのだ。犬飼から延岡までと同様に、宮崎から都城までは10号を歩くより269号の方が近い。もちろん山越えになる。しかし歩きの僕にはその方が早かった。

市街地を抜け大淀川を越える橋の上で、またしても腕組みをして考え込んでしまった。今日の寝床だ。もういい時間になっていたが、昼風呂のおかげであまり進めていなかった。あと1時間くらいは歩きたいのだ。しかし夕方の天気予報では、明日の宮崎は朝から雨だと言っている。迷った。1時間分の距離か、雨の撤収か。

答えはあっさり出た。僕は土手を下りると橋の下にテントを張った。出した答えはそういう事だった。
雨の中で濡れたテントを撤収するよりも、明日は午後から晴れるだろうという天気予報に賭けてみたのだ。
果たしてこの選択が吉なのか凶なのか。それは明日にならなければわからない。だけどわかないからこそ、旅は楽しいのかも知れない。

今日の歩行距離約38km。

写真1
曙桜。夜明けの桜もまたいい。

写真2
南国チック。宮崎は至る所に椰子がある。

写真3
ついに鹿児島の文字。ラストスパート。

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