2009年12月29日火曜日

交わることのない人生

僕の数少ない特技の中に、いつでもどこでも寝られるというものがある。深夜バスで寝ることくらい、文字通り朝飯前なのだ。

まだ暗い中、終着の稚内フェリーターミナルに降りたった。驚いたことことに、乗客の半分近くがここで降りた。ということは、彼らはこのターミナルから出港する利尻島、礼文島に向かうということだ。ここからさらに船で2時間。北の離島に帰省するのも楽でないな、そう思った。

夜が明ける。強い冬型の気圧配置のために風が激しい。雪は降っていないものの、手が届きそうなほど低く重苦しい雲の流れは早い。鈍色の海は、水平線でそんな雲と溶け合って境界線が判然としない。はっきり言って厳しい生活環境だと思う。だけどそんな土地にも人々は力強く生きていてる。素晴らしいと思う。僕は、そういう人々がたまらなく好きだ。

バイクで日本を駆け巡っていた頃、幾度となくそんな気持ちを味わった。
苔蒸し、人気もなく、うっそうとした山道を走っていると、突然山の中にぽつりぽつりと人家を見つけることがあった。少し開けた斜面には小さな段々畑。それ以外には何もない。商店も学校も病院もない。もしかしたら水道もなく、井戸や沢の水で生活しているのかもしれない。でも、ここに生活する人がいる。
寒風吹きすさぶ海沿いに、寄り添うように建っている数軒の人家。港とも呼べないような小さなそこには、小さな漁船がひっそりと2雙。竹竿に掛けられた網が、風になびいている。ここにもおよそ僕らが生活に必要と思うものは何もない。だけどやっぱり生活している人がいる。
そんな時、僕は決まってどうしようもなくいとおしい気持ちになる。彼らの生活は確かにここにあり、そしてそれは僕の人生と交わることはない。そう思うと胸が締め付けられるような気持ちになる。と同時に温かい気持ちにもなる。うまく言葉には出来ないけど、そういう気持ちになったことはないだろうか?

稚内に住む友人が迎えに来てくれた。彼もこの地で生きているひとり。大変なことも多いだろう。
そんな彼に連れられて、日本最北の温泉で体を温め、稚内名物のタコしゃぶに舌鼓。寒い冬を知っている人間の心は暖かい。最北の町の夜は楽しく過ぎていった。

写真
稚内と言えば北防波堤ドーム。北海道遺産。

0 件のコメント:

コメントを投稿