2012年7月30日月曜日

コーラーの国 vol.1

6時に目が覚めた。ぼちぼち準備をして8時にホテルを出る。綺麗な宿ではなかったが、オーナー親子は揃っていい人ではあった。

ハルパタグアの町から30分も走ると、ほどなくエルサルバドルとの国境へ到着した。国境は山間にあり、峠道を下っていくと目の前に現れた。そこには一本の川があり、それがお互いの国を分けていた。川には橋が架けられ、向こう側には「ようこそエルサルバドルへ」とスペイン語で書かれた看板が誇らしげにに立っていた。こちら側にも同じ看板があった。裏側なので何が書かれているか分からないが、それが「ようこそグアテマラへ」だということは容易に想像できた。

次の国へ。

まずはグアテマラの出国手続きなのだが、バイクを停めた瞬間、一斉に両替商やら何やらに囲まれてしまった。各々が言いたいことを好き勝手に言ってくるのでやかましくて仕方ない。僕が歩くと、その輪がそのまま動く。僕はひたすら首を横に振りながら何も聞こえないという顔をして税関へと向かった。
税関の窓口まで来るとその輪がぱっと崩れ、周りには誰ひとりとして居なくなった。その辺はきちんとわきまえているらしい。もっとも窓口付近には警備員が愛想の無い顔をして立っているので、あまり派手なことは出来ないのだろう。

税関ではペルミソ(バイクの一時輸入許可証)の返納をするだけなのだが、窓口で差し出したペルミソをあっさり突っ返されてしまった。

「ノーシステム」

何かを早口で言われたが、聞き取れたのはその単語だけだった。そのノーシステムが復旧するまで結局20分ほど待たされてしまったが、イミグレーションではあっさりと出国のスタンプを押してくれた。
これで出国手続きは完了だ。
橋を渡る前に使い切れなかったケツァールをドル(エルサルバドルの通過はUSドルそのものだ)に換金した。600ケツァールで75ドルになった。悪くない。両替商にしつこく付きまとわれるのはうざったいが、いなければいないで僕も困ってしまう。この辺は国境という特殊な場所を舞台に、奇妙にバランスが保たれているのだろう。

バイクにまたがりゆっくりと橋を渡った。両国をつなぐ橋を渡りきれば、そこは間違いなくエルサルバドルだ。
まずはペルミソの作成なのだが、ここでそれに待ったがかかってしまった。ナンバープレートの素材が金属でないと突っ込まれたのだ。

(ついに言われてしまったか)

正直な気持ちだった。
僕のバイクにつけてあるナンバープレートは、プラスチック製だった。それも自分で作ったものだ。遠目にはそれっぽく見えるものの、近くで見ればやはりそれはプラスチックでしかない。
国際用のナンバープレートは、JAFでカルネを作成するときに頼めばきちんとした物(金属製)を作成してくれる。しかし僕はそれをせず、自作した。それもプラスチックで。今までの国境でナンバープレートの素材など気にしていないようだったが、ついに目を付けられてしまったようだ。係員たちはあーだこーだとバイクを取り囲み何かをしきりに話し合っている。こんな状況ではまさかこのプレートは自分で作ったんですなんて言えない。

「日本のナンバープレートはプラスチックなのか?」

ひとりの係員が質問をしてきた。

「そうだ」

僕は思わず答えてしまった。そんなわけがない。さすがにちょっとまずいだろうと思い直し、

「大抵はサルバドールと同じ金属製だ。だけど小さい排気量のバイクはプラスチックなのだ」

と付け加えた。どちらにせようそではある。しかしこれからこの国境を訪れる日本のバイク乗りが何か言われても困る。もっともプラスチックのナンバープレートを付けてくるバイク乗りがいるかはわからないが。

渋々のペルミソ発行となった。係員は納得いかないのだがな、といった顔をしていた。しかしペルミソさえ発行されればこちらのものだ。これで大手を振ってエルサルバドルを走ることが出来る。たとえ警察に止められようが、検問にひっかかろうが、ペルミソがあれば怖くない。なにせ税関が発行した公的文書。印籠代わりというわけだ。

税関のある建物の反対側にイミグレーションがあった。ここでもひとこと言われてしまった。パスポートに押されたグアテマラ入国時のスタンプを見て、

「残りの滞在可能日数が少ないぞ」

と言われてしまったのだ。そんなことは重々承知だ。もちろん違反をしているわけではないので単なる忠告でしかない。手続きは続行された。オフィサーはパスポートをスキャンし、コンピューターに向かって何かを打ち込み、やがてパスポートを返してきた。パスポートに入国スタンプは押されて無かった(グアテマラの出国スタンプがあればいいようだ)が、

「ジャ?(もういいの?)」

とたずねると、うなずきながら一度だけ片手を水平に動かした。完了の合図だ。パスポートと一緒にサインされた小さな紙切れを渡された。それを入国ゲートで手渡すと、目の前のゲートがゆっくりと開けられた。エルサルバドルに入国するためのすべてが整った瞬間だった。

つづく。

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