タカハウスに2ヶ月ちょっとの滞在中、3度下痢をした。以前グアテマラを訪れたときも入国してすぐに腹を下した。どうも僕にはグアテマラの水が合わないらしい。
単なる下痢ならば、腹がゆるくなって1日に何度もトイレに駆け込むことにはなるが、それだけだ。だまっていても1週間ほどでおさまっていく。しかし1度は38度を超える熱を伴った。さすがに38度を超えると起き上がるのもしんどく、とてもシェア飯を作るどころではなかった。食欲さえもわかず、バナナ1本食べるのがやっとだった。
熱にうなされながら2日寝込んだ。なかなか回復しない僕を見て心配した友人は
「もしかしてアメーバ赤痢なんじゃないのかな?」
と言った。そして
「いい薬があるよ」
と付け加えた。
それは町の薬局で風邪薬として売られているのだが、それを飲むとなぜかアメーバ赤痢が治るということだった。そんな馬鹿な話があるものかと思ったが、どうやらグアテマラが風邪薬を作るとアメーバ赤痢まで治ってしまうらしかった。
そんなわけの分からない薬は飲みたくなかったので、僕はおとなしく日本から持ってきた抗生物質を飲んだ。翌日安静にしていたら、その次の日には無事に熱も収まり食欲も復活した。
***
ロンにはまっていた。ロンとはサトウキビを原料とした蒸留酒で、つまりはラム酒のことだ。カリブと言えばやはりラムなのである。メキシコに居たときにはテキーラを飲んでいたように、その国へ行ったらその国の酒を飲む、というのも旅の大きな楽しみだ。
ライムがただのような値段で売られているので、贅沢に搾ってストレートでちびちび飲んでいた。シェア飯を作るようになってからは調理をしながらやるようになったので、ボトル1本のロンは1週間ともたなくなってしまった。
いつも近くのスーパーでロンを買っていた。よく買っていたのはボトラン(グアテマラ産)とバカルディー(キューバ産)のオロ(ゴールド)だ。バカルディーのオロで1リットルのボトルが55ケツァール(約550円)ほどだった。しかし同じ棚には750ミリリットルのボトルが58ケツァールで売られていた。
(はて、量の多い方が安いとはどうことか)
いつも不思議に思っていた。友人もそれについては同様に思っていたらしく、ある日スーパーの店員を捕まえて問いただしたらしい。返ってきた言葉は「プロモーション」というものだった。なるほどそうかと納得したが、そのプロモーションは僕がシェラにいた2ヶ月間、ついに終わることはなかった。きっとこの先も終わることがないだろう。
***
ある日タカハウスにひとりの女の子がやってきた。この春大学を卒業し、香港に本社のある旅行会社に就職が決まっていると言った。そして最後の休みを利用し、カリブの島々と中米をまわる旅に出た。
いつものようにシェア飯を食べ終わり、皆でテーブルを囲んで話をしていた。日付が変わる頃になると、次第にひとり、またひとりと自分のベッドに戻っていき、テーブルには僕と彼女だけが残った。僕はふたりで話すこともさほどないだろうと思い、適当に話を進めながら頃合いをみて皆と同じように自分のベッドにもぐりこもうと考えていた。しかし、そうはいかなかった。
ことのほか彼女との会話が楽しかった。時間が経つのを忘れてしまった。彼女は頭が良かった。落ち着いた話し方は耳に心地よかったし、なによりお互いの価値観が似ていた。ひとまわりも離れた年下の女の子だが、そのことは大して問題にならなかった。旅の話はもちろん、仕事や趣味、これまでの生きてきた時間や好みの異性のタイプに至るまで、実にいろんな話をした。
気づけば時計は朝の5時半を示していた。さすがに疲労感を覚えた僕は、そろそろ寝ようと彼女に提案した。早朝に宿を出るという彼女も少し寝た方がいいかなと言い、それぞれがそれぞれの部屋に戻った。見上げる空はうっすらと朝の雰囲気が漂っていた。僕は充実した気持ちでベッドにもぐりこんだ。
つづく。
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