2010年2月5日金曜日

歩35日目 宮城県大崎市

天候 晴れ
気温 6時 -12.8度
   17時 0.2度

「限界などない。それを越えて行くのだ」

衝撃的だった。
その言葉を聞いた時、それは僕の胸に真正面から突き刺さり、その後一切抜けなくなってしまった。ブルース・リーの言葉だった。

今日は50km超えを目指した。今まで40km後半はあるものの、50kmの大台に乗ったことはなかった。

最後のチャンスかも知れなかった。東北を出たら(もしかしたら仙台辺りで)冬装備を解除しようと考えている。スコップや十字ペグなどは本州に入ってから日の目を浴びていなかったし、仙台からは海沿いを歩こうと考えているので、それらはもうただの重い足かせと化していた。

必要無いものは送り返す。そうなれば背負う重量はかなり減る。もちろんそれは嬉しいことなのだけど、そうなるとこの先もう荷物の重量が20kgを超えることはなくなるだろう。だから今のうちだった。重量が20kgある状態での50km超え。やるなら今日しかない。そう思った。

単純に50km歩くなら、今の僕なら重量が20kgあろうがなかろうが時間をかければ可能なはずだ。だから時間制限を設けた。
普段のペースを見ると大体時速は3.5kmといったところだ。頑張って歩いて時速4km。それは稼働時間と歩行距離をもとにしているから、買い物からトイレ休憩までの時間も全て含んでいる。
ならば頑張った場合と仮定して、50km歩くなら12時間30分。さらに30分縮めて12時間。その時間内に歩き切ること。そう決めた。

3時30分。起床。まだ少し早いが寝袋の中でブログを書く。物凄く寒い。寝袋から顔を出せない。久しぶりにテントの中に雪が降った。一体何度なんだ?この寒さはまるで北海道のそれだ。寝袋の襟元は結露が薄い氷になって張りついていた。

気合いを入れて寝袋から這い出る。凍らないように寝る前にズボンのポケットに入れておいたおにぎりを食べる。文字通り人肌に温まっていた。
そんなおにぎりとは対照的に、後生大事に持ち運んでいる長ねぎが棒切れのように凍っていた。さすがに釘は打てそうにないが、チャンバラくらいはできそうな感じだ。

気温はマイナス12度。驚いた。一瞬温度計の故障を考えた。北海道でさえなかなかそこまで下がらない。それは長ねぎも凍るというものだ。

テント撤収では手はおろか、足の指先の感覚までなくした。冷たいではなく、痛い。時折ズボンのポケットに手を突っ込んで暖めないと作業が出来なかった。鼻水はもはやオートマチックで、いくらすすっても止めることは不可能だった。

7時19分。出発。国道4号には100m毎に道標が立っている。出発地点の数字は437.6km。東京までの距離だ。これを12時間以内に387.6kmまで減らす。それが今日の目標だ。

歩き始めて最初のコンビニに立ち寄った。気付は車は宮城ナンバーに変わっている。いつ県境を越えたのだろう。もしかしたら昨日の内に越えてしまったのかもしれない。暗くてわからなかったのか。何はともあれ宮城県に入ったことだけは確かなようだ。

吐く息は白かった。白の濃さは気温の低さに比例するのか、それははっきりとした白だった。白い固まりが僕の前に漂い、ぼんやりと消えていった。
気温は低いが陽の光に暖められる。筋肉が徐々にほぐされていく。

道端で休憩がてら、サンドイッチを食べた。いつも夜のうちに作っておく。今日は卵サンド。口に運ぶと卵がシャリシャリと音をたてた。凍っていた。おにぎりは一緒に寝たが、サンドイッチまでは気が回らなかった。北海道でミソパンがパキンというのはわかるけど、まさか宮城で卵がシャリシャリいうとは。温かいコーヒーで流し込んだ。

11時40分。20km地点通過。10kmを1時間20分ペースで進めばいいので幾分早いペースだ。後半はペースも落ちるだろうから少しの貯金でも嬉しい。コンビニで昼食。
新しい靴に慣れていないのか、足の裏に小さなマメができた。チクチクと痛むがまだ大丈夫。

14時10分。30km地点通過。予定通り。しかしのんびり買い物をしている暇などはなさそうだ。
足の痛みが増している。マメが大きくなっているのだろう。痛む部分を避けるように歩く。

16時30分。40km地点通過。あと10km。残り時間は2時間50分。かなり余裕がある。しかし足のマメはもうごまかしが効かないくらい大きくなってしまった。一歩ごとに痛みが走る。足を引きずるような感じで、歩幅なんて歩き始めの半分しか出せない。
今日も西の空に陽が沈んでいく。浮かぶ雲が燃えるような紅に染め上げられた。綺麗な景色に幾分救われる。

残り4kmからが辛かった。やはり50kmは僕にとってひとつの壁のようだ。顔はうつむき、目線は足元に落ちた。あと4km。あと1時間。呪文のように唱えた。そうしないと、痛いとか辛いとか、そんな言葉が勝手に口から漏れた。
小さな一歩を必死に積み重ねた。100m毎にある道標を数える度に、あと少しを繰り返した。

387.6kmの道標を見つけ、その場に立ち止まった。やっと辿り着いた。全身の力が抜けていった。時間は19時03分。50kmにかかった時間は11時間44分だった。なんとか目標はクリアできた。しかしあまりに疲れていた。足を引きずる自分が少し情けなかった。

そのまま近くの道の駅に向かった。もう先には進めなかったのだ。有り難いことに24時間の休憩所があって、ゆっくり体を休めることができた。
足のマメは大小8個も出来ていた。大きな物はナイフで切って水を抜いた。明日まで回復するだろうか。少しくらいは良くなってもらはないと。それにしても今日は疲れた。ゆっくり寝よう。暖かい休憩所で寝袋に包まった。

今日の歩行距離約50km。

写真1
久しぶりにテントが真っ白。こうなると指先が痛い。

写真2
今日の朝日。朝日と夕日はついパシャリ。

写真3
今日のありえない。目を疑うのだった。

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