2010年2月18日木曜日

歩48日目 神奈川県川崎市

天候 曇り
気温 9時 4.1度
   17時 5.5度

不安な朝を迎えていた。

いざリーチング佐多岬の公開募集なんてしてみたものの、結局は僕の独りよがりな企画だ。しかも平日の日中という条件を考えると、誰ひとり来ないんじゃないかという後ろ向きな考えが頭をよぎる。

いいさ。例えそうだとしても、単にそれまでのこと。

そう簡単に割り切ることが出来ないほど、僕の中でこの旅は大きな意味を持ち始めていた。不安と期待がない交ぜになり、何度も深呼吸した。

6時45分。起床。布団をたたみ、荷物をまとめる。仕事へ出かける友人を見送り、朝食をとったら電気を消してお世話になった部屋を出た。鍵はポストに入れた。不安を払拭するように両手でぱんと手を叩いた。

8時30分。日本橋到着。到着早々声をかけられた。そこにいたのは宗谷岬で一緒に年を越した男性だった。彼は、仕事前にわざわざ日本橋まで僕に会いに来てくれたのだ。
握手で再会を喜ぶ。あの日の夜が蘇る。凍えるバス停で一緒に酒を飲んだ。まだ1月半しか経っていないのに、それはもう遠い日の記憶のようだった。
「なかなか歩くペースが早くて驚きましたよ」
という彼は、袋にどっさりと差し入れをくれた。
まただ。
また優しい手だ。僕は何もしていないのに。僕は何も返せないのに。ありがたくその袋を受け取りながら、いつもの様に僕の胸はきゅうっと締め付けられてしまった。心のずっと奥の方、一番柔らかな部分を、温かな両手で包み込まれる様な感覚。
「これからも応援してます。頑張ってください」
そう言うと彼は足早に仕事へと向かい、あっという間に人混みに紛れてしまった。朝の貴重な時間を割いてくれ、会いに来てくれた事が何より嬉しかった。


9時10分。その後は誰も来なかった。仕方ない。そろそろ出発しようかと思ったその時、目の前にひとりの女性が現れた。流山で僕を迎えてくれた女性だった。
「え?なんでいるの?」
驚いた。まさか彼女が来るとは思っていなかった。何故なら彼女は足の骨にひびが入っていて、今尚ギブスをしているからだ。
「一緒に歩こうと思って」
耳を疑った。いくら治りかけていると言っても、今尚足にギブスだ。
「足、大丈夫なの?」
「うん。ゆっくりで悪いけど歩けるよ」
本人が歩くと言うのなら止められない。彼女はリーチング佐多岬の7人目となってくれた。

日本橋を出発し、浜松町を目指す。朝の銀座をふたりでゆっくり歩く。可笑しな光景だった。旅の話は尽きず、あっという間に次の待ち合わせ場所に到着した。

10時20分。待ち合わせ場所にいたのは小さな可愛らしい女の子だった。僕を見て、駆け寄るようにして前に立つと
「ナカタさんですか?」
と言った。
初対面だった。彼女は僕のブログの読者だった。よくコメントをくれて、東京に来たら一緒に歩きたいと言ってくれていた。ブログを通じて人と会ったのはこれが初めてだったので、とても不思議な感覚だった。僕の投げ掛けに、目に見えぬ場所から波が帰ってきたようだった。小さな川を下ってきた船が、ついに大洋にたどり着いたような気分を味わった。目の前が一気に開け、外海との繋がりを見た。可能性の広がりを感じた。
「はじめまして」
挨拶を交わし、3人で歩き始めた。彼女がリーチング佐多岬の8人目となってくれた。

品川に到着したのは予定よりもずいぶん早かった。駅前の喫茶店に入り、いろいろな話をした。初対面だけど3人とも旅好きで、話題には事欠かなかった。
「行きたい場所がたくさんあるんです」
そう言う女の子はまだ若く、羨ましさを覚えるほど可能性に満ち溢れて見えた。

昼を少し過ぎた頃、旅仲間のひとりが仕事を終えて駆け付けてくれた。彼と初めて会ったのは沖縄の石垣島で、屋久島や北アルプスなどの山々を一緒に登る仲だった。そんな彼も快くリーチング佐多岬の9人目となってくれた。

4人で待ち合わせ場所の郵便局へ向かう。残念ながら誰も来なかったが、次第に増える人数に比例して、僕の心も満たされていった。
レストランで昼食にしたら、ここで日本橋から歩いてきた女性と別れることとなった。10km近くも怪我を押して歩いてくれた。ありがとうを何度も言った。ひとりづつ握手をして、彼女に見送られる形で別れた。

品川から第一京浜を外れ、旧東海道を3人で歩いた。趣のある旧道だった。都心にもこんは場所があるんだね。3人でそんな話をした。

次の集合場所の大森海岸駅前には30分ほど遅れて到着した。誰も居らず、少し休憩して先へ進む。

17時30分。1時間遅れで目的地の公園にゴールした。日本橋から19km。日は既に暮れかけていた。無事到着した喜びを、お互い握手で確認した。
「結構疲れたね」
僕の言葉に皆うなずいた。

当初このまま多摩川でキャンプでもしようと考えていたが、参加者が誰もいないのと、旅仲間の彼が家に泊まっていけばどうだと言うので、その言葉に感謝し甘えることにした。

多摩川を渡り、神奈川県に入る。橋の上からマンションの部屋の明かりが無数に見えた。暗い土手を並んで歩き、川崎駅で女の子と別れた。ありがとうと最後の握手。改札を抜けてホームへと向かう小さな後ろ姿を見つめ、彼女は楽しんでくれただろうか?そんな事を思う。うん。きっと大丈夫。僕がこれだけ楽しかったのだから、きっと彼女にもそれが伝わったはずだ。僕は、何の根拠もない答えを出した。

旅仲間の彼と駅近くの居酒屋へ入る。荷物を下ろし、冷たいビールに喉を鳴らした。
その後、仕事を終えた僕の友人が3人も加わった。
「仕事がなかったら一緒に歩きたかったんだけどね」
「ブログ毎日楽しみにしているよ」
わざわざ会いに来てくれて、さらにそう言ってもらえるだけで僕は幸せだった。中には僕の為に応援歌(右側ガジェットにリンクがあります)を作ってくれた友人もいた。

楽しく酒を飲んだ。たくさん話をした。そして、抱えきれない程の元気をもらった。応援してくれるその気持ちに、素直に応えたいと思った。

リーチング佐多岬の公開募集は大成功だったと思う。1日にこれだけ多くの、僕を応援してくれる人に会ったのは初めてだった。朝の不安な気持ちなど微塵も無くなっていた。僕は、嬉しく思う。ほろ酔い気分で流し込むビールは、充実の味がした。
この日、僕の中でこの旅がさらに大きな意味を持つこととなった。

今日の歩行距離約20km。

写真1
日本橋で宗谷岬以来の再会。優しい手。

写真2
品川駅にて。リーチング佐多岬の過去最高人数を記録。

写真3
仕事終わりに駆け付けてくれた。ひとりひとりから何かを託された。

2 件のコメント:

  1. 一緒に歩けてメッチャ楽しかったよ!

    ゆっくり歩いてくれてありがとう♪

    いっぱいいっぱい元気もらったよ!

    今は別々だけど気持ちはゴールまで一緒に歩いてるから、
    気をつけて旅を楽しんでね♪
         
                         カズ

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  2. カズさん

    サプライズ参加ありがとう!
    足大丈夫だった?

    気持ちはしっかり受け取りました。
    佐多岬まで頑張って歩くよ!

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