2010年2月27日土曜日

歩57日目 愛知県岡崎市

昨日の晩、一通のメールをもらった。岩手でお世話になった姉妹からだった。

岩手の北上である人に偶然出会ったという内容だった。その人物とは、僕が北海道の留萌手前で出会ったお坊さんだった。なんという偶然だろう。まさかそんな事もあるのか。驚いた。

彼女達が僕のブログを見、お坊さんの事を覚えていた事も嬉しいが、何より、北海道から南下してきたお坊さんが彼女達の地元を歩き、そしてそれを彼女達が発見してしまうという偶然に驚きを隠せない。当事者の姉妹もお坊さんも、たいそう驚いたそうだ。

「こうやって彼の友達にも逢えるなんて、すごい縁を感じます。彼に連絡が取れたら、またどこかで必ず逢えると信じてますので、逢う日を楽しみにしていますとお伝え下さい」

お坊さんは伝言を彼女達に託し、僕はそれをしっかり受け取った。

嬉しかった。物凄く元気をもらった。そういう偶然が前に進む活力になる。

旅をしていると、出会いの縁というものを強く意識するようになる。縁のある人とない人というのがいて、縁のある人には本当に何度も出会うからだ。
縁のある人とは、別に何の連絡もしていないし、進む方向さえ違うのに、会う。何度も。まるで何か不思議な力が働いているように。
またその逆もしかりで、縁のない人には本当に縁がない。進む方向も日程も同じなのに、すぐ近くにいるというのに、会わない。まるで何か不思議な力が働いているように。

長い放浪の旅をしていないとその感覚はわからないかも知れないが、旅というのは不思議なものなのだ。
偶然なのか、必然なのか。それは僕には分からないけれど、それが旅をより一層魅力的なものにしている事には変わりない。

5時40分。起床。朝だ。起きなければ。4時にセットしてあるアラームなど、ひとつも耳に入らなかった。昨日の晩の雨は上がっていたが、テントは濡れ、寝袋もしっとりしていた。

6時50分。出発。新居宿の関所を横目に歩く。雨上がりの気持ちのいい朝だ。雨に濡れた土やコンクリートの匂いがいい。

8時20分。白須賀宿到着。潮見坂を登る。ここは京から下ると初めて太平洋が見える場所だという。ならばこの先太平洋は見る事が出来ないということか。残念だ。次に見られるのは九州か。かなり先の話になる。

8時50分。境川を越え、ついに愛知県に入る。長い長い静岡が、やっと終わった瞬間だった。
愛知県に入ったところで雨が降りだす。カッパを着る。まだそれほどは強くない。

10時30分。二川宿到着。雨は一度本降りになったが、その雨脚を弱めた。いくらゴアテックスと言えどカッパを着ていると蒸れるので、ここで脱いだ。汗をかくより小雨に濡れた方が気持ちいい。

12時00分。一台のパトカーが僕を追い越す。道路右側の歩道を歩いていた僕の近くで少しスピードを緩めたようか気がして、なんとなく嫌な予感がした。しかしパトカーは何事もなかったかのように前方に消えていった。一瞬どこか脇道にでも入ろうかと考えた。が、やめた。別に僕は何も悪い事をしていない。ただ歩いているだけだ。なんで僕が道をそれなければならない。そう思い、直進した。
やがてパトカーは目の前に現れた。どこかでUターンしてきたのだろう。やはりか。僕は、手前5mで赤色灯を回して停まったパトカーに見えるように、大きくうなだれてみせた。

職務質問だった。ついに、というかやっときたか。そういう気分だった。
北海道を元旦に出発してから今日まで、お巡りさんからチョコレートはもらっても、一度も職務質問はされなかった。今はもう名古屋である。よくここまで一度もなかったものだ。それはなかなか珍しい事と思う。
観念した僕は素直に運転免許証を提示した。やましい事は何もない。話を早く終わらせたほうがいい。若い警官がそれを受け取り、パトカーの無線で僕の身元の確認をする。もうひとり、少し年上の警官が僕にいくつかの質問をする。歩いて旅をしていること。北海道から出発したこと。鹿児島まで向かうこと。きちんと説明する。ただそれだけだ。
「今まで警官に声をかけられたことは?」
と聞くので、
「職務質問は初めてですよ」
そう答えると、警官は驚いていた。無理もない。それは僕が一番驚いているのだから。

職務質問といっても警官だって何も嫌がらせでしている訳ではない。大きなバックパックで雨に打たれながら歩いていれば、気にもなるというものだ。お互い歩み寄れば話も早い。
「気を付けて歩いて下さいね」
最後には温かい言葉も頂いた。
運転免許証を財布にしまい、これで終わったかと思ったところ、
「ところでどこに向かってますか?」
と聞かれた。どうも僕は見当違いな道を歩いていたらしい。てっきり国道1号を歩いていると思っていたが、それは1km南を走っているらしい。僕はそこから離れるように北へと歩いていた。
助かった。このまま気付かずに北に向かっていたら、とても取り返しの付かない事になっていた。まだ1kmの間違いで済んで良かった。
「ありがとうございます。助かりました」
お礼を言って警官と別れた。

1km南には、確かに国道1号があった。僕は警官のおかげて道間違いから抜け出せた。そう思うと、あの時あの場所で警官が現れてくれたのは物凄い偶然なのではないだろうかと思う。まるで僕の道間違いを正すために現れたとしか思えない。偶然か必然か。旅というのは本当に不思議なものだ。

13時30分。吉田宿到着。ここは現在の豊橋市。城下町とあって今も栄えている。松葉公園で休憩と昼食。雨脚が強まったので再びカッパを着て歩きだす。

16時40分。御油宿到着。雨は本降り。僕はびしょ濡れ。雨宿り。雲の流れが早いから少し待てば小降りになるだろうか。
御油の一里塚は日本橋から76里と書いてあり、天然記念に指定された松並木が素晴らしかった。

18時00分。赤坂宿を過ぎたところでどしゃ降りの雨に足が進まない。まるでバケツをひっくり返したような雨だ。商店の軒先で暗く重い空を恨めしく仰ぐ。雨はやむ気配がない。行くか留まるか。散々悩んだ。そして、僕は進む事にした。少しでも京都に近づきたかったのだ。気合いを入れ、濡れて重くなった荷物を担ぐ。大雨のせいで川のようになった暗い歩道を一歩づつ進んだ。

19時20分。本宿駅に逃げ込んだ。もうこれ以上濡れないだろうというくらいに濡れていた。雨に打たれて、靴の中までびしょ濡れ。あと10kmの岡崎まで行きたいが、もう無理だった。雨だけでなく風が出てきたのだ。こんな時に歩くのは間違いだ。観念してガード下にテントを張る。

風に揺れるテントの中で濡れた服を脱ぎ捨てると、やっと生きた心地がした。携帯電話で天気予報を見る。明日は一時的に晴れると言っている。空は未だバケツをひっくり返しているが、僕はそれを信じて寝袋に包るしかなかった。

今日の歩行距離約34km。

今日の通過宿場町

白須賀宿
二川宿
吉田宿
御油宿
赤坂宿

残り宿場町数17

写真1
新居の関所。関所が今も残っているのは新居だけとか。

写真2
御油の一里塚。日本橋から76個目になる。まだ雨にやられる前。

写真3
御油の松並木。国の天然記念。600mある。

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