2010年3月13日土曜日

歩71日目 京都府京丹後市

天候 晴れ
気温 6時 2.0度
   16時 14.7度

人は、風呂の為なら一体何kmまで歩く事が出来るのだろう?
今の僕らには、片道2kmの道のりにさえ風呂を捨てることが出来た。例え5日間風呂に入っていなくても、だ。
それが人として正しい選択なのか、間違った選択なのか、落ちた肩を上げることが出来ない僕らには、判断することが困難だった。

5時50分。起床。友人に起こされる。あぁ、もう6時になるのか。疲れているとあっという間に朝になる。
今朝も一段と冷え込んでいる。テントから首だけ出すと、外は朝もやに煙り、芝生にはびっしり霜が降りていた。見事な放射冷却だった。いくら晴れて雨の心配がないと言っても、今の時期なら軒先にテントを張る方が利口だ。

7時00分。出発。いつものように熱いコーヒーで体を目覚めさせたら、今日もまた歩き始める。歩く事が、毎日のやるべき事。それが今の僕らだ。

9時00分。コンビニで今日の作戦会議。明日は夕日ケ浦に居る友人の女の子と会う約束をしている。彼女は僕らの共通の知り合いだ。それも網野から夕日ケ浦まで、僕らと一緒に歩いてくれるという。嬉しいじゃないか。わざわざ遠回りをして丹後半島に来たのはそのためだった。

明日までに網野へ到着すれば良いので、今日は峰山の北、弥栄の道の駅まで歩こうと決めた。そこはユーラピアという魅力的な名前で、きっと温泉があるのだろうとふたりで笑顔になった。結局今回も京都市を出てから5日間、風呂にありつけていなかった。別に風呂に入る事を放棄している訳ではないが、なかなか入るタイミングが見つからないのだ。
例えば、温泉が今歩いている道から脇に2km離れているだけで、行く気が失せる。だって往復4kmだ。前に進む事が最優先の歩き旅で、風呂だけのために1時間余計に歩かなければならないのは、かなり厳しい。だから毎回毎回風呂日照りに陥る。
それでも今日は道の駅まで約25km。昨日に比べたら楽勝の距離だ。明るいうちに到着して、もう体がふやけるまで風呂に入ってやろう。ふたりでそう合意した。

9時45分。苦しんだ峠道の国道176号を終え、国道312号にぶつかった。標識には豊岡の文字が見える。そこは兵庫県。日本海側へ出るために京都を縦断してきたおかげでなかなか次の県に進めずにいたが、これで京都を出る日も近い。

10時10分。水谷峠の途中で京丹後市に入った。宮津線が頭上を走る。のどかな山間部をゆっくりと歩く。雨の心配もなく、距離も歩かなくていいとなると気持ちに余裕が生まれる。心なしか会話が増え、笑う声も大きかった。

11時00分。野菜の産地直売店に入ってみる。こういう所は野菜がとにかく安いので、よく立ち寄る。今回は特に買うものがなかった(歩きでは重い野菜に手が出せない)が、お店のおばちゃん達とおしゃべりをしていたら、コーヒーに大福餅をご馳走になってしまった。大きな荷物はとにかく目立つようだ。

13時00分。ラーメン屋で昼食。食べ終えて一息ついたらもう14時近い。少し先を急いだ。昼を過ぎてもまだ全体の半分しか歩いていなかったのだ。余裕を持て余していたら、すっかりのんびりペースになっていた。

峰山の町で買い物をし、適度な休憩のみで歩く。一気にペースが上がる。うん。いつもの感覚だ。これなら明るいうちに目的地に到着出来るだろう。

国道を外れ、さらに府道も外れ、交通量の極端に少ない広域農道を歩く。地図で読んだ道ではなかったが、標識に従うと、そういうことだった。山々が連なる中に真っ直ぐ延びる農道を、右へ左へ標識に案内されるまま歩く。その度に、徐々に方向感覚を失っていく。本当にこの道で合っているのか?果たしてこんな山の中に道の駅なんてあるのか?ふたりで心配になりだした頃、山の中の道の駅にたどり着いた。太陽は傾き始めていたが、暗やみに包まれるにはまだ当分時間があった。

「やっと風呂に入れますね」
「気持ち良すぎて気絶しちゃうかもな」
足取りが軽くなる。喜び勇んで駆け上がる階段。だけどその先にあったのは、遊園地だった。温泉なんて、どこにもなかった。ふたりで固まった。その場に立ち尽くた。体から、力が抜けていくのが分かった。ユーラピアのユーは、「湯」ではなく「遊」だったのだ。

休憩所のベンチに力なく座った。よりによって遊園地だったとは。期待を裏切られた失望感が、ため息となって口から漏れた。名前だけで判断し、ちゃんと確認しなかった僕らが悪い。やり場のない憤りを感じる。
「ここから2kmの温泉に行きますか?」
友人が言った。確かにここに来る途中に温泉の看板があり、道の駅から2kmほどの距離だった。しかし、往復4kmは今さら歩けなかった。
「いや、いいや。なんだかもう力が抜けちゃったよ」「僕もいいですわ。明日の楽しみにします」
ついに今日も風呂にはありつけなかった。脱力感が辺りに漂っていた。うつむき加減の僕らには、風呂の為に片道2kmの壁を越えることが出来なかった。
結局、明日夕日ケ浦で温かい湯に浸かれる事を夢見て、今日も1日分の汚れを蓄えた体を寝袋の中に流し込むのだった。

今日の歩行距離約25km。

写真1
宮津線が頭上を走る。山あいの風景。

写真2
まっすぐに延びる道。絵になる。が、歩きにはしんどい。

写真3
笹舟。友人謹製。こんな顔だけど…。

2 件のコメント:

  1. こんにちは、お疲れさまです。
    失礼ながら、思わず、吹き出してしまいました^^
    お風呂。
    旅をすると、意外とお風呂って、遠い存在になりますよね〜

    それにしても、つい先日東京にいらしたと思ったら
    もう、京都ですね。
    日々の積み重ねというやつの偉大さを感じます。

    お二方とも、ご無事で!

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  2. タイ象さん

    風呂にはいつも悩まされます…
    まだ夏のように汗をかかないのが救いです。

    ホント、歩けばいずれ到着できるものなんですねぇ。
    やってる本人が言うのもなんですが…

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