2010年3月26日金曜日

歩84日目 山口県山口市

天候 雨ときどき曇り
気温 6時 14.6度(室内)
   16時 5.8度

運を天に任せるとは、まさにこのことか。

予報では雨だった。昼にはあがるらしいが、目的地とする長門峡の道の駅までは45kmあった。遅くとも7時には出発しなければならない距離だ。必然的に雨の歩行になる。まして45kmはお世話にも近いとは言えない距離。もちろん道の駅まで行かなくてもいい。しかし京都を経ってから17日。昨日まで休みなく歩き続けていた。体の事を考えると、そろそろ休養した方が賢明だった。

20km先にも道の駅があった。しかも温泉付きだ。20kmなら半日の距離。もしそこまでとするなら、雨があがってから出発しても十分夕方に到着できる。半日は体を休ませる事が出来る。それも湯に浸かりながらのんびりと、だ。

昨日の晩、何度も何度も地図を見つめ、距離を測り、それでも結論を出せずにいた。少しでも前に進みたい。でも体を休ませる事も大切だ。考えは二転三転。答えは見つかりそうになかった。

段々考えるのに疲れてきた。どちらを選択してもメリットとデメリットがあり、その天秤は均衡を保っていた。結論が出そうにない。そんな事に頭を使うのが馬鹿らしくなったのだ。もういいや。朝起きて雨が降っていなければ、歩く。雨が降っていれば、休む。天候に任せよう。そう決めた。それは要するにさじを投げたという事だが、それはそれで良かったのだろう。僕は馬鹿だからきっと雨が降っていても、膝が痛くても、行くとなれば歩くだろう。冷静に考えればそれは無謀な事だ。たまには運を天に任せるのも悪くない。

6時20分。いつもよりだいぶ遅い起床になった。
4時半には一度目が覚めた。いつもなら寝袋の中で伸びをしたり、ブログを書いたり、頭を覚醒させるためにもぞもぞと活動を開始するところだが、今朝はそんなことを全て放擲して寝返りを打った。何故なら雨が降っていたからだ。それも篠突く雨だ。空は、僕に歩くなと言っているようだった。ふかふかの柔らかく温かい寝袋の感触を楽しみながら、幸せの二度寝を味わった。

幸せの中で、僕は昨日見た夢の事を考えていた。不思議な夢だった。その夢の登場人物はふたり。僕と、おまわりさんだ。
「お休みの所をすみません」
おまわりさんは音もなく現れた。
「一応免許証だけ拝見させて下さい。はい。旅ですか?どちらまで?鹿児島。そうですか。歩き?それは大変ですね。この先山口市内に入る峠は歩道も狭く危険ですから気を付けてくださいね。えぇ。はいどうも。ではおやすみなさい」
音もなくおまわりさんは消えた。そこに残ったのは寝袋に包まった僕ひとりだった。あれは一体なんだったのだろう。

10時10分。出発。雨があがるのを待っていたらこんな時間になっていた。まだ少し降っているが、カッパを着るほどでもなかった。

膝に負担をかけぬようゆっくりと歩いた。時間はたっぷりある。やはり20kmしか歩かなくていいと思うと心身ともに余裕が生まれる。

14時20分。やがて津和野の町に到着した。国道9号からさらに低い位置にそれはあった。もし町中に入るなら、だいぶ坂を下りて行かねばならなかった。それは同時にまた坂を登らなければならないという事だ。先を急ぐなら、きっと下りなかっただろう。でも今日は余裕がある。見下ろす街並みには雲間から差し込む日が当たっていて、誘われる様に僕は町へと続く坂道へ足を向けた。

津和野は古い街並みを持ち、小京都とも呼ばれている町だ。のんびり歩くにはちょうど良い大きさで、少し雨が降ってきたものの、なんだか久しぶりの観光らしい観光に心が楽しくなった。思えばこの旅で観光なんて何度しただろう。指折り数えてみても、それは片手で足りてしまう数だった。

16時30分。山口県に入った。またしてもトンネル内での県境越えだ。ついに本州最後の県。次はいよいよ九州に入る。
トンネルを抜けると、すぐに願成就温泉といういかした名前の道の駅があった。もう着いてしまった。全然疲れていない。それもそのはず。いつもの半分しか歩いていないのだ。

すぐに温泉に入った。風呂はいつぶりだろう。忘れてしまった。風呂に入らない日を数えるのなんて、もうとっくに放棄していた。意味の無い事だ。なんにせよ、とにかく気持ち良いという事と、一度のシャンプーでは髪が全く泡立たないという事だけは変わりなかった。

ぬるめの湯が僕好みで、ゆっくり1時間半も入っていた。ふらふらになりながらあがり、休憩室でビールを飲んで畳の上に身を投げ出した。幸せという名の脱力感が全身を襲い、しばらくそのまま放心状態を楽しんだ。

19時を少し過ぎたあたりで再度風呂に入った。誰もいない露天風呂にざぶんと飛び込み、少しだけ張り出した軒先の下で足を伸ばして目を閉じた。最高だ。それ以外言えなかった。
軒先の下を選んだのは雨が降っていたからだ。真っ黒な空からは容赦なく雨粒が落ちていた。もし45km歩いていたら、きっと今頃カッパを着ていた事だろう。そう思うと今こうやって誰もいない露天風呂で温まっている事がとても幸せだと思った。
最高だ。もう一度言った。そして昨日の夜にもういいやとさじを投げた自分と、朝に雨を降らせてくれた天に感謝した。

今日の歩行距離約21km。

写真1
津和野の街並み。山陰の小京都。

写真2
津和野を見下ろす。雲の切れ間から日が当たる。

写真3
ついに山口県。トンネル内の県境越え。

0 件のコメント:

コメントを投稿