2010年3月22日月曜日

歩80日目 島根県大田市

天候 曇りのち晴れ
気温 7時 9.5度
   17時 9.6度

「ナカちゃん!」

誰かの呼ぶ声がした。

女の子の声だった。誰だ?こんな所で。

立ち止まり、車道を見ると、そこには見慣れたバイクがあった。あぁ、そういうことか。僕は、自然と笑顔になった。

4時40分。起床。夜中にはひっきりなしにトイレに行く人達がいた。トイレは僕ら3人が寝ている休憩所の奥にあり、その都度自動扉の開く音が室内に響いた。世間は今、3連休の真っ只中にあるらしい。道の駅の駐車場には、車中泊の人達がたくさん居たのだ。

6時30分。出発。チャリダーふたりに見送られながら道の駅を後にする。朝から風が強く、しかも向かい風。かなり前傾姿勢ならねばならず、着ている服がばたついて歩きにくいったらない。無風時に比べて倍ほど疲れる。一体この風はいつやんでくれるのだろう。先行きが不安になる。

9時00分。出雲市に入った。町に入ると幾分風よけになるので少しはましだ。しかし遮るものが無い区間では、前に進む事さえ困難だった。コンビニを見つけては逃げ込む様に店内に入った。風を体に浴びていない時だけは、全身の力を抜く事ができた。

10時30分。スーパーマーケットで休憩中に見たテレビのニュースでは、全国的に風が強く、各地の交通機関がストップし、死傷者まで出たと言っている。この先も暴風に注意しろと言っていた。しかし僕にはどうしようもできない。僕にできる事と言ったら、歯を食い縛り、帽子が飛ばされぬように手で押さえるくらいだ。

13時50分。国道9号をいつものように無心で歩いていた。僕の名前を呼ぶ声がしたのは、その時だった。
顔を上げ立ち止まる。車道を見ると、見慣れたバイクがあった。旅仲間の女の子だった。あぁそういうことか。僕はすぐに理解した。

数日前、彼女からメールでどこにいるか尋ねられていた。それは何度かやりとりするメールの中で、話の流れにきれいに乗った質問だったから、僕は特に気なしていなかった。だけどなるほどこういう事だったのか。あのメールに意味を、今やっと納得できた。

15時00分。多岐の道の駅に到着した。旅仲間の女の子とも合流した。彼女はただ会いに来てくれただけでなく、リーチング佐多岬に参加するために来たのだった。しかも、1泊2日の工程で。京都からはるばる。

なんてことだ。実際彼女はテントに寝袋、マット、さらには自炊道具まで持参していた。30Lのバックパックを背負い、今にも走りだしそうなほどやる気満々だ。

負けたよ。まったく。いつも彼女には適わない。
彼女は僕の旅仲間の中で、最も古いうちのひとりだ。もうかなり長い付き合いになっている。そして、いつも僕は彼女に適わないのだ。
ずっと楽しみにしていた遠足にでも行くかのような顔をしている彼女を見て、僕はまたしても嬉しいため息をつくのだった。

日はまだ高い位置にある。今日はどこまで行けるだろう。リーチング佐多岬の13人目となってくれた彼女と並んで、海沿いの西へと延びる国道を歩き始めた。

17時00分。大田市に入った。風はいくらか弱くなった気がする。だが山から海に出ると、まだまだ風と格闘しなければならなかった。

18時00分。国道から海沿いに走る県道に折れた。寝床を探すためだ。水を持ち合わせていなかった僕らには、水を確保できる場所を探さなければなかったのだ。

空はすっかり夕焼けだった。真っ赤な太陽が目の前にあって、それは、空に浮かぶ雲を紅に染め上げながら、静かにその身を沈めていった。きれいな夕陽だった。普通ならば足を止めて見とれてしまうだろう。だけど旅中の、まだ寝床が決まっていない時に見る夕陽は、それがどんなにきれいであってもいつも心が急いてしまうものだ。早く寝床を見つけなければ、あっという間に暗くなってしまう。

18時30分。波根駅に到着した。とにかく駅に行けばなんとかなるような気がしたのだ。果たしてその予感は当たっていた。そこは、無人駅だったのだ。
ふたりで顔を見合せ喜んだ。無人駅に泊まるのは初めてだったが、墓地にテントを張った事を考えたら何の問題もなかった。

今日のお疲れ様と、久しぶりの再会を祝してビールで乾杯をした。ビールはなんと彼女が背負っていた。満載のバックパックからそれが出てきた時はさすがに驚いたが、僕の酒好きを知っての事だった。
なんておいしいビールなのだろう。疲れと、寝床が決まった安心感と、彼女の優しさがそう感じさせたに違いない。

ふたりで夕食にし、僕がすっかり眠くなってしまうまで、ずっと話をしていた。長い付き合いの中で、彼女との話題には事欠かなかった。
彼女はこれからまた新しい旅に出ると言っていた。それは羨ましくなるほどすてきな内容だった。
きっと良い旅になるだろう。長く付き合ってきた僕には、それが分かった。

今日の歩行距離約40km。

写真1
桜と菜の花と相棒。春全開。

写真2
リーチング佐多岬の13人目。適わない。

写真3
きれいな海岸線を歩く。風は、強い。

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