2010年3月30日火曜日

歩88日目 福岡県築上郡上毛町

天候 晴れ
気温 8時 8.0度
   17時 11.1度

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お詫びです。

最近、携帯電話からのコメント投稿が受け付けられず、皆さんから頂いたコメントへの返事が出来ていません。
大変申し訳ありません。

日を置いて何度も試しているのですが、うまくいかなくなってしまいました。
原因は不明です。

パソコンからの投稿は出来ると思いますので、コメントして頂いた方は今しばらくお待ち下さい。
パソコンが使える環境になったら(それはつまりゴールした後という事ですが…)必ずお返しします。

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「お父さん、行くよ!」

大きな声で、僕は言った。話し掛けるべき人物が見当たらなかったのだ。
少しの間を置いて、柱の陰からお父さんはひょっこり現れた。小さく手を振りながら、
「気を付けてな」
そう言ってくれた。

歩きだした国道はすでに薄暗く、目の前には誰かが膨らませたんじゃないだろうかと思わせるような、大きくて丸い月が浮かんでいた。

6時00分。起床。少し寝坊した。昨晩は大変だったのだ。テントに入り、ワインとチーズですっかりが気分が良くなった僕は、夕食にパスタでも茹でようとコッヘル水を入れ火にかけた。お湯が沸き、二等分に折ったパスタを投入する。何もかもが順調だった。

パスタがそろそろ茹であがるという時、遠くで雷が鳴った。まさか。最初はそう思った。さっきまで空には月が浮かんでいたのだ。しかし、雷はもう一度鳴った。近くなっている。まずいな。フライを付けようか。今日は月が見えていたし、屋根の下だったからテントのフライシートは付けていなかった。雨はないと信じて疑わなかったのだ。

しかし雷が鳴るということは、きっと雨が降り風も出るだろう。そうなれば壁のない屋根だけのあずまやなんて何の意味もない。バーナーの火を止め、外に出る準備をしようとしたその時、強い風が吹いた。

突然の雷雨だった。それはフライを付ける間もなく、僕のちっぽけなテントを襲った。強風にテントがひしゃげそうになり、両手でポールを押さえねばならなかった。フライを付けていないテントはじわりと雨が入り込み、風が弱くなる一瞬をみてタオルでそれを拭うのが精一杯だった。とにかく1秒でも早くこの雷雨が行き過ぎてくれるのを、僕は目の前でどんどんのびていくパスタを悲しい気持ちで見つめながら待つしかなかった。

結局雷雨はそう長くは続かなかったが、目の前でパスタは倍にも膨れあがっていた。おかしな天気だった。夕方に見た天気図からは(僕の知識では)まったく予想出来なかった事態だ。きっと空も僕の九州入りを盛大に祝福してくれたのだろう。そう考え納得することにした。

7時50分。出発。濡れたテントを乾かしていたら遅くなった。それでもまだ完全に乾いていない。日差しが出たら昼にでもまた干さなければならない。

県道25号をしばらく進むと国道10号と交わった。ここからはバイパス等を除けば大分市あたりまでこの10号のお世話になる。

今日は朝から右膝が痛くあまり飛ばせない。休憩ついでに国道脇の空きスペースにテントを広げて乾かした。照りつける強い日差しが、テントにしみ込んだ水分をいとも簡単に蒸発させてくれた。

14時00分。今川を越える。土手に並ぶ桜が満開で、きれいだ。シートを広げ花見をしている姿も見られる。暖かい午後の羨ましい光景だ。

15時00分。バイパスとなる国道から外れ、行橋市街地を通過する。この頃には膝が楽になっていた。温まったのかなんなのか、自分でもよくわからないが、なんにせよ痛くないのは良い事だ。午前の遅れを取り戻すべく快調に飛ばす。

豊前市の道の駅に着いたのは18時を少し過ぎての事だった。夜の帳が降り始めていた。じきに暗くなる。
そこに荷物を前後に積んだママチャリを見つけた。荷物は比較的きれいに積まれ、きちんとカバーがかけられていた。持ち主はきっと几帳面に違いない。

僕は自転車近くのベンチに座っていた。今晩ここに泊まるか、もう6km先にある次の道の駅まで歩くか、決めかねていた。

「大きな荷物だな」
そう言ってお父さんは現れた。自転車の持ち主だった。僕は歩いて旅している事を話す。
「そうか。山陰は寒かっただろう。今晩ここに寝るのか?」
まだ決めかねているのだと伝えると、僕の座っている隣のベンチを指差し、
「俺は今晩ここで寝るけどな」
と言って笑った。そしてもし次の道の駅まで行くなら明るいうちに進んだ方がいいとも言った。

僕は先に進む事にした。お父さんの言葉が背中を押したのだ。
「お父さんも旅してるの?」
僕は尋ねた。
「俺はこの近所さ。ただ帰らないだけだ」
お父さんはそう答えてまた笑った。

似た者同士だ。お父さんも僕も、何の違いもない。きっとお父さんも日々旅にして、旅を住みかとしているのだ。

少しの休憩の後、僕は立ち上がった。靴を履き直し、バックパックを背負った。お父さんの姿がない。どこだろう。このまま黙って行くのも忍びない。挨拶くらいはした方がいい。
僕は息を吸い、大きな声で見えぬ相手に投げ掛けた。お父さんはそれに応えてくれた。

20時00分。暗い夜道を歩き、新吉富の道の駅に到着した。先客がひとりいて、少し話をした。京都から自転車で来ているらしい。
「由布院は天国だぞ」
そう言って思い出したようにうなずき、
「あそこは良かった。山を越えるのがえらいけどな」
と続けた。

僕は少し離れた場所にテントを張り、中に入った。今日はもう雨はないだろうし、そもそも軒下だから安心だ。空腹に温かいラーメン流し込み、冷えた体を暖めた。

今日の歩行距離約45km。

写真1
桜が満開。花見がしたい。

写真2
きれいな夕焼けだった。山へと沈む夕陽。

写真3
誰かが膨らませた月。ぽっかり。

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