2010年3月16日火曜日

歩74日目 兵庫県豊岡市

天候 曇りのち雨
気温 6時 11.7度
   17時 14.7度

それでも植村さんは言う。
自分の夢に挑戦することが大切だと。どんなに困難なことでも、強い信念をもってすればいずれ必ず叶うのだと。

6時00分。起床。すぐに湯を沸かす。もうすっかり日課になっている。今日はコーヒーではなく熱いコーンスープで目を覚ます。昨日、夕日ケ浦の女の子に貰ったのだ。他にもたくさんある。シェラカップに入れた熱々を、少しずつ冷ましながら飲んむと、体と同時に心も温まった。

7時10分。出発。ここから植村直己冒険館までは約1時間。開館が9時だから、まだたっぷりと余裕がある。途中のコンビニでブログを書き、頃合いをみて冒険館を目指した。

今日は一段と風が強い。向かい風のために一歩が重く、帽子まで飛ばされそうになる。空は灰色で、低くく、流れが早い。雨は、いずれ間違いなくやってくる。いくら僕が青空を願ったところで、それは屈強な雨雲の壁に跳ね返され、天には届かない。雨を受け入れるしかなかった。

8時40分。冒険館に到着。ここを訪れるのは2回目だ。4年ほど前にも足を運んでいる。一度来ているのに、ましてや歩き旅なのに、それでも再度訪れるだけの魅力がここにはある。僕は、そう思う。

入り口の前で写真を撮っていると、男性職員の方がやってきて、もう中に入れますからどうぞと言ってくれた。長い通路を抜け、入り口の扉を開ける。女性職員の方が受け付けをしてくれ、僕の背負っている荷物を見てすぐに、こちらで預かりますよと言ってくれた。
シアタールームで映像を堪能したあと、ゆっくりと展示室を見て回った。トイレを済ませて受け付けに戻ると、入館から2時間近くが経っていた。

荷物を受け取ろうとすると、
「もしお時間があれば、少しお話を聞かせてくれませんか?」
と言われた。なんだろうと思ったが、旅には限らず何かに挑戦している人を対象にアンケートを行っているのだそうだ。
時間はある。どうせ外は降り始めた雨が、強い風に舞って横殴りだ。だけど僕には人に誇れるような挑戦なんてない。
「僕で良ければ。時間なら、あります」
そう答えるしかなかった。

1時間くらい話をしただろうか。若い女性職員の投げる質問に答えを返した。今回の歩き旅だけでなく、今までの旅のことや、これからの計画に至るまで、聞かれるままに、詳細に、偽りなく、実に素直に答えた。それは久しぶりに植村直己さんの冒険心に触れ、気分が高揚していたからかも知れない。気持ちが素直になっていたかも知れない。だけど本当の理由は、僕の吹けば飛ぶような体験談や夢の話なんて、故人のそれに比べたらどうしようもなくちっぽけな事のように思えた、というのが本音だ。

それでも植村さんは言っていた。自分の夢に挑戦することが大切だと。夢を持ち続けること。決してあきらめないこと。夢の大小ではない。それに向かってどれだけ自分の気持ちを注げるかが一番大切なんだと。

アンケートが終わった。この内容は、他のアンケートを受けた人達と同じように館内の案内板と、冒険館のホームページに掲載されるという。なんだか僕の旅が認められたようで、少し嬉しい事だった。

アンケートが終わっても、外は相変わらずの横殴りだった。僕は、前に座る女性職員に何気なく尋ねた。この先にある道の駅はどんな感じですかと。それは深く考えた言葉ではなかった。話の流れのようなもので、どんな内容の返事でも良かった。

ところが予想に反して話が大きくなってしまった。女性職員は、私はよく知らないので聞いてみますと言い、その席を立ってしまった。僕が望んでいた答えは、まさにそのよく分からないで十分だったのだ。しかし、話は瞬く間に全職員に行き渡ってしまった。
「こんな天気ですし、もし道の駅で泊まるのでしたら、電話で確認してみましょうか?」
ひとりの男性職員がそう言ってくれた。僕はすっかり恐縮してしまい、ありがたく好意を受け取る事にした。

13時00分。冒険館を後にした。やはり故人は素朴で、偉大だった。もし僕の心にも冒険心というものがあるのなら、それは今、これ以上ないくらい満ち足りている事だろう。吹き付ける雨と風に耐えながら、それでも心の底から沸き上がる活力が、体を前へ前へと進ませた。気持ちが高揚していた。僕も何かやらなければ。そんな気持ちになっていた。

15時30分。10kmほど峠道を登ったところにある道の駅に到着した。雨は一時的にやんでいるが、まだまだこれからが本番だろう。風はやまず、物凄い早さで雨雲を運んでいる。

道の駅の職員に挨拶をした。電話を入れてもらったおかげで話がスムーズだった。まだ日没までは時間があるが、この先は山道で何もない。この天候で雨ざらしの野宿は厳しい。今日はありがたくここを寝床とさせてもらった。
閉館を待ち、風を避けれる軒先にテントを張る。時折吹く雨も突風も、ここなら安心して眠る事ができる。

様々な土地で、様々な人達に助けられている。旅を通して、人の一番温かい部分に触れている気がする。僕は、すべてに感謝しなければならない。
この気持ちはいつまでも消したくないし、旅を忘れない限り、きっとなくすことはないのだと思う。

今日の歩行距離約14km。

写真1
冒険館前で。男性職員が撮ってくれた。

写真2
素敵な写真。人柄が伺える。

写真3
来館記念にバッチを頂いた。イグルー。

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