2010年3月19日金曜日

歩77日目 鳥取県東伯郡琴浦町

天候 曇りときどき雨とか晴れとかで結局雨
気温 7時 2.8度
   16時 12.6度

「1万円で買ったんですよ。友達から」

少しはにかんだ笑顔で、彼は言った。愛車に片手を乗せ、見つめる眼差しはどこか誇らしげだった。
旅のきっかけなんて人それぞれで、それは、ほんの小さな出来事なのかもしれない。

5時20分。起床。風の音がしない。寝袋に包まりながら、最初に思った事はそれだった。
旅をしていると、とにかく天候に敏感になる。たぶんブログにもしつこいくらい天気の事を書いているが、実際24時間屋外にいるのだから、それは切っても切り離せないものなのだ。例えどんな些細な変化でも。

昨日の晩に炊いた米で鶏飯を作る。奄美諸島にいる友人が送ってくれた鶏飯の素があったのだ。鶏飯とは、鶏だしのあっさりとしたお茶漬けのようなもので、奄美諸島で食べられている郷土料理だ。久しぶりに食べるそれは、なんだか南の島の味がした。

6時30分。出発。海は穏やかで、波は規則正しくやってきた。風がやんでいるのが嬉しい。3日間悩まされ続けた風から、やっと解放された気分だった。遠くの丘に立つ風力発電の風車も、まったく仕事を放棄している。

9時10分。バス停で休憩をした。15分ほどで外に出ると、空は一変していた。そこにあるのは雨の気配だった。いつ雨が降ってもおかしくない空模様で、少し見ぬ間にとても不安定な状態になってしまった。

11時00分。北条の道の駅到着。風が出てきた。またしても僕を悩ませるのか。黒い雲は小雨をもパラついかせている。
朝からずっと早足で歩きすぎたのか、いつもなら午後から感じる足痛みを、もうすでに感じ始めている。足を労るように少し長めの休憩。

13時30分。大栄の道の駅に到着。館内で休憩し、外に出ると空が明るくなっていた。所々に青空も見える。差し込む日の光に、大山もうっすらと姿を浮かび上がらせていた。久しぶりに大きな山を見た。大山は中国地方の最高峰。とても男性的な山で、その姿は雄大だ。

雲の切れ間から差し込む日差しを浴びた途端、汗がじんわりと出てきた。暑い。たまらずインナーを脱ぐ。体温調節は面倒でもこまめにやる方がいい。

ひとりのチャリダーとすれ違った。コナのバイクに荷物を乗せている。対向車線だったために、お互い軽い会釈旅の挨拶だけだったが、それでもそんな些細な出来事で嬉しくなるものだ。

15時30分。琴浦町に到着。晴れたと思った空はまた厚い雲に覆われてしまった。
現時点で33km歩いている。1日40kmは歩きたいのだが、これから大山の裾野に入るためこの先には何もない。しかも今日は夕方から雨予報。できれば屋根のある所で寝たいのだ。この先2kmで道の駅がある。到着は16時くらいか。まだ少し歩ける時間に到着するが、先に進むか、早めに切り上げるか、なかなか決断が下せないでいた。

16時00分。結局決断できぬまま、予定通り赤碕の道の駅到着してしまった。まだ2時間は歩ける時間だ。悩みつつも一息つこうと立ち寄ると、1台の自転車を見つけた。壁に立て掛けられた自転車は、明らかに旅人のそれだった。
館内に入ると、その彼がいた。東京から九州を目指していると言った。僕は、久しぶりの旅人との出会いに嬉しくなってしまい、先に進む事も忘れ、つい話し込んでしまった。

その彼は言う。まさか自分がこんな旅をするとは思ってもみなかったと。たまたま友達から1万円でマウンテンバイクを買った。それでどこまで行けるか試したかった。きっかけは、そんな些細な事らしかった。

旅する理由なんて人それぞれだし、なんだっていいと思う。僕だって人に誇れる理由なんてない。
だけど理由はどうあれ、旅に出るその一歩が素晴らしいのだと思う。何事も、始める事が大切なのだから。

その夜は道の駅の休憩所で過ごした。ふたりで夕食を食べ、ふたりで寝袋に包まった。気付けば外は篠突く雨が降っている。もし彼がいなかったら、今ごろ僕は雨のテントにひとり居たかも知れない。そう思うと出会いは不思議なものだと思った。

出会いは偶然なのか必然なのか。どちらにせよ、旅をしていなければ出会わなかった人達が僕の周りにはたくさんいる。そして、それは旅をして得た一番の財産だと、胸を張って言うことができる。

今日の歩行距離約35km。

写真1
海岸線を歩くのが好きだ。潮の香りがいい。

写真2
風車が立ち並ぶ。雪のサロベツ原野を思い出す。

写真3
いい笑顔。始める事が大切だと教えてくれた。

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