2010年3月27日土曜日

歩85日目 山口県山口市

天候 曇りときどき雪のち晴れ
気温 7時 1.6度
   17時 8.1度

「believe your 鳥肌」

巧い言葉だと思う。高橋歩さんの言葉だ。

高橋さんの本は、ずいぶん昔に読んだ事がある。いくつかの本を読んだのだど、今でもこの言葉は心に残っている。

寺を見て鳥肌が立ったのは、今までの人生であの一度だけだ。京都市内にある東寺を見た時。正しくは、東寺の敷地内にある五重の塔を見た瞬間、だ。
ぞくりとした。自分の意志とは関係なく、鳥肌が立った。全身の肌が刃物の様に研ぎ澄まされ、毛が一本一本逆立つのがわかった。そして金縛りにあった様に、その場に立ち尽くして一歩も動けなくなってしまった。

その後何度か東寺には足を向けた。やはり何度見ても五重の塔は素晴らしかった。しかし、二度とあのぞくりはなかった。あれは一体何だったのだろう。夢ではない。紛れも無い事実だった。

結局、僕は自信の鳥肌を信じるしかなかった。

5時20分。起床。寒い。インナーダウンを着て、寝袋のファスナーをしっかり上げて寝たのに、暑くなかった。ついこの前までこんな事をして寝たら汗をかいてしまう。寝袋の中はもうTシャツだけで十分な気温だったのだ。

今朝も残った米にコーンスープを入れた。
「いや、マジうまいって」
誰に言うわけでもないけれど、言い訳の様にそんな事を口にしてしまう。それはすっかりお気に入りメニューだ。

雨は、あがっていた。夜中に何度か強い雨音が聞こえ、その度に起こされ、寝返りを打ち、朝にはきっとやんでるさ、そう思ってまた眠りについた。根拠なんてない。そう思わなければゆっくりと寝ていられなかったのだ。我ながら楽天的だ。

7時00分。出発。夜中の雨はどこへやら。根拠のない確信は、偶然にも当たってしまった。楽天家の僕はそのことにすっかり鼻が伸びてしまう。
オレンジ色の朝焼けが影を伸ばす。わずかに残る雨雲も、風に流され足早に西の空へと消えていく。今日はもう雨の心配はない。道路脇の温度計は0を表示しているが、寒くたって雨に濡れるより100倍ましだ。晴れてはいるが、季節外れの雪がちらついていた。

12時40分。長門峡の道の駅に到着。この頃には気温もあがり、グローブとネックウォーマーを外していた。それでもたまにちらつく雪に、上空の寒気の強さが伺える。
しかし桜の時期に雪が降るとは珍しい。しかも青空なのにだ。青空と桜と雪。一度に全てを味わえるのだからなんとも贅沢な事だ。

16時00分。木戸山峠に差し掛かる。最高到達点は333m。それほど高くはないが、歩道が狭い上に大型トラックが多く危険だ。そういえば夢の中でおまわりさんが言っていた。歩道も狭く危険ですから気を付けてくださいねと。あれは本当だった。

登り切った所にはお決まりのようにトンネルがあって、抜けると当然下りだった。山の所々に咲いている桜を愛でながら、でも気持ち早足で山を下りた。
早足だったのには理由がある。日が傾き始めていたからなのだが、それだけではない。瑠璃光寺に行きたかったのだ。

僕の中で、山口市と言えば瑠璃光寺、という公式が出来ている。もちろん勝手な公式だ。その公式の解は五重の塔、つまりは鳥肌である。瑠璃光寺の五重の塔は国宝にもなっていて、東寺のそれとは対照的な良さがあった。東寺の五重の塔は力強く、壮麗であるのに対し、瑠璃光寺のはしなやかで、優美だった。この歩き旅でもし山口市を通るなら、一目だけでも見たかったのだ。

18時30分。瑠璃光寺に到着出来た。少し息が乱れている。体も熱い。だけどまだ日は暮れていない。間に合った。刻々と色合いを変えて行く空に、溶け込むようにそれはたたずんでいた。
あの鳥肌は、やはりなかった。だけど僕は満足だった。

19時40分。山口市の繁華街に湯田温泉はある。その一角に足湯があり、僕はそこで温まっていた。もうすっかり夜なのだけど、足湯の魅力に負けてしまったのだ。2度まで落ち込んだ外気に、体は完全に冷やされていた。それでも足を通してゆっくりと身体中が温まっていくと、心にも余裕が出来るというもの。この先30分も歩けば大きな公園がある。向かいにはドラッグストア(コスモスといえば旅人には言わずと知れた存在)もある。さらに雨の心配はない。
「どうせもう真っ暗だ。今さら焦っても仕方ない」
もうなるようにしかならないし、根拠はないがどうにか出来る自信もあった。
繁華街を楽しそうに歩く人々を眺めながら、僕は足湯を心行くまで楽しんだ。

今日の歩行距離約47km。

写真1
道の駅にあった達磨ストーブ。今どき珍しい。

写真2
徳佐のしだれ桜。運良く見頃。

写真3
鳥肌を信じろ!

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