2010年3月3日水曜日

歩60日目 滋賀県甲賀市

天候 晴れ
気温 6時 3.6度
   17時 11.8度

まぁるいお月が 夜空にひとつ
くらい夜道を 照らしたの

お月があんまり あかるくて
お星はみぃんな かくれたの

ひとりでぽっかり さみしかろ
ひとりでぽっかり つめたかろ

それでもお月は 照らしたの
わたしの行く道 照らしたの

きれいな月だった。東の空から西の空へ。それは一晩中僕の行く道を照らしてくれた。

もし金子みすずさんか今夜の月を見たならば、きっとこんな詩を残したかもしれないな。そんな事を考えながら、月明かりに照らされた夜道を歩いた。足元には僕の影がのびていた。楽しい夜だった。

0時30分。木曽川を越える。愛知県から三重県に入った。長良川、揖斐川と越えると桑名の市街地に入っていった。
風呂上がりで腹が減っていたのでコンビニでパンを買った。とりあえず腹を満たすと、今度は猛烈な睡魔が襲ってきた。気を抜くと歩きながら寝てしまいそうなほどだ。どこかの駐車場に入り荷物を投げ捨て、その場に横になった。あっという間に15分が経っていた。寒さで目を覚まし、慌てて歩き始める。頭はいくぶんすっきりしていた。

2時40分。桑名宿通過。

4時30分。四日市市到着。次第に空が明るくなってきた。代わりに一晩中付き添ってくれた丸い月は姿を消した。きれいな朝焼けを横目にひたすら歩く。

7時00分。バーガーショップに入り、1時間の仮眠とブログ更新。店を出ると完全に朝が終わっていた。昼の匂いがした。時計は10時半を示していた。

13時30分。鈴鹿市到着。鈴鹿川左をに、さらにその先には鈴鹿サーキット。バイクで来たことはあるが、まさか自分の足で歩いてくるとは思わなかった。

晴れていた空にはいつのまにか一面の雲に覆われていた。まだ雨雲ではないが、きっと夕方からは雨が降りだすだろう。これから迎える鈴鹿峠。京都入り最後の難関は、暗く雨の峠越えになりそうだ。

14時45分。亀山到着。かなり疲れてきている。ベンチに座ると途端に睡魔が襲ってくる。そのまま横になる。膝から下がじんじんし、血液がどくどくと身体中を駆け巡るのがわかる。頭がぼぅっとする。気持ちいい。このまま寝られたら幸せだな、なんて弱気な気持ちはベンチに置き去りにして再び歩き出す。

ついにぽつりぽつりと雨が降りだした。まだカッパを着なくても大丈夫だ。かまわず進む。

17時15分。関到着。雨は上がっていたが、雲行きはさらに怪しさを増していた。いつ降ってもおかしくない状態で、今はなんとか均衡を保っている、そんな空だった。

関宿は好きな場所だった。バイク旅で一度訪れた事があり、その時一瞬で気に入った。全ての宿場を見てきた訳ではないが、東海道五十三次の中でも秀逸だと思う。
約1.8kmの古い町並みを歩く。素晴らしい町並み。暗くなりつつある空の下、まるで昔にタイムスリップしてしまったかのような錯覚。歩いてくるのを楽しみにしていただけはあった。
日が暮れ気温が下がってきたのでインナーを着る。これから鈴鹿峠。気合いを入れ関の町を後にした。

日が暮れた。辺りはすっかり暗闇だった。昨日の月は、重い雨雲に隠されて姿を現さなかった。足元に、僕の影はのびかなった。

18時30分。登り始めた国道1号を歩いた。人家が無くなると同時に歩道も無くなり、トラックが猛スピードで脇をかすめていった。その度に身の縮まる思いがした。
雨も降りだした。パーキングスペースでカッパを着る。ヘッドライトを付け、手にはペンライト。予想通り、暗い雨の峠越えになった。最後の難関。これを越えれば京都は近い。京都に着けば友人がいる。温かい布団がある。それを励みに一歩づつ歩いた。

坂道は次第に勾配をきつくし、雨は強弱を繰り返した。救いだったのは、名古屋方面に向かう車線に広い歩道があった事だ。おかげでトラックの恐怖からは逃れられた。

20時20分。2時間弱。延々続く登りの先に、トンネルを見つけた。頂上だった。やっと登りが終わった瞬間だった。

トンネルを抜けると、思いもしない出来事が僕を待っていた。暗闇の向こうからひとりの女性が歩いてきた。昨日、差し入れを持ってきてくれたあの女の子だった。次第に近づく彼女を見て、僕は心底ほっとした。「お疲れ様」
彼女の言葉に、暗く長い峠道の鎖から解放された気分だった。

関を出た時、彼女には今から鈴鹿峠ですと、昨日のお礼を兼ねてメールを送っていた。しかしまさか来てくれるとは思わなかった。さらに驚いたのは、峠手前の道の駅に車をおいて、歩いて頂上まで来ていたことだ。
「近くを通るなら一緒に歩きたくて、今日がその日だったんです」
彼女はさらりと言ったけど、それは僕と同じように暗い雨の峠をたったひとりで登ってきたということだ。信じられなかった。信じられないほど嬉しかった。夜の鈴鹿峠の頂上で、彼女はリーチング佐多岬の10人目となってくれた。

暗い峠の歩道をふたりで並んで歩いた。もう疲れ果ててボロボロの足だったけど、そんなことは全然気にならなかった。雨は弱まり、フードがいらないくらいになっていた。北海道で初めて会ったあの時、まさか夜の峠をふたりで歩くとは想像も出来なかった。想像も出来ないからこそ楽しいんだと、お互いの旅の思い出話しに花を咲かせながら思った。

道の駅までは予想以上に遠く、5kmは歩かなければならなかった。こんなに長い距離を歩いて来てくれたことにまた嬉しくなった。
「嬉しいなぁ」
何度もその言葉が口から出た。素直な気持ちだった。
22時00分。土山の道の駅到着。雨がまた降り始めたので軒下のベンチに座って休憩した。彼女は車からおにぎりを持ってきてくれて、雨を眺めながらふたりで食べた。本当においしかった。

その時、僕らの目の前に車が停まった。運転席から降りてきたのは、滋賀に住む僕の友人だった。僕は呆気にとられて何も言葉が出なかった。
「多分この辺りにいるんじゃないかと思って」
彼は、仕事終わりに僕のためにこうして来てくれたのだ。なんて事だ。あまりにも嬉しい出来事が重なって、まるで夢の世界にいるようだった。彼も北海道で出会った旅仲間だった。2年もかけたバイク旅は、今こうしてひとつひとつの花を咲かせた。

懐かしい話しは尽きなかった。いつまで3人で話しをしていたかった。しかし僕は行かなければならなかった。京都まであと60km。夕方に到着するためにはもうゆっくりしている暇はなかった。今夜も夜通し歩くのだ。

23時00分。ふたりに見送られながら、本降りの雨の中京都を目指して歩きだした。あと60km。道は、鈴鹿峠を越えて滋賀県に入っていた。

今日の歩行距離約65km。

今日の通過宿場町

桑名宿
四日市宿
石薬師宿
庄野宿
亀山宿
関宿
坂下宿
土山宿

残り宿場町数4

写真1
まぁるいお月。ぽっかり。

写真2
関宿。秀逸。

写真3
夜の道の駅で。花が咲いた日。

4 件のコメント:

  1. おいおい、2日続けて夜通しなんて・・・
    無理すんなって・・・・って言っても無駄だろうから(笑)
    気をつけてね〜。

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  2. お久しぶりです
    私も気持ちは一緒に歩いてます!!!!
    喜びも一緒に共有しちゃってます!!!^^

    東京もおとといすごいきれいな満月でした

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  3. タイシさん

    いやぁ無理しすぎちゃったよ…笑

    ボロボロです。


    頑張ったんだけどなぁ

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  4. 遥さん

    ありがとう!
    共有してもえることが何よりです。

    月には本当に救われましたよ

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