2010年3月21日日曜日

歩79日目 島根県簸川郡斐川町

天候 晴れのち雨
気温 6時 12.8度
   17時 25.0度

もしかしたら僕は、長い間日本を旅し過ぎたのかも知れない。

5時20分。起床。暖かかった。テントの外は、生暖かい風が吹いていた。嫌な感じだ。低気圧が近づいて、南からの風が吹いているのだろうか。夕方からの雨予報はきっと外れてはくれないだろう。カッパは取り出しやすい場所に入れ、荷物への雨対策は忘れない。

6時30分。出発。早朝の安来市内を抜け出す。中海を右手に見ながら国道9号を西へとひた歩く。2時間で東出雲町に入った。海岸線に咲く梅の花は満開だった。

10時00分。松江市に入る。気温はぐんぐん上がっているようだ。たまらずTシャツだけになる。それでも暑いくらいだ。

手持ちのガスが無くなりかけていることに気付いたのは、今朝の事だった。たぶん今日の夜はもつだろうが、明日の朝には無くなるかも知れない。そんな程しか残っていなかった。うっかりしていた。
ガスは、いつもは100円均一の店で1本づつ買っていた。しかしこの先しばらくその店がなく、今日は買えそうにない。地図で何度も確認したのだ。
だからといってガスを買わない訳にはいかない。ガス無しは、飯無しを意味する。コーヒー1杯飲めない。そう考えだすと居たたまれなかった。食べる事は旅の中において数少ない(今の僕に限っては最大の)楽しみだ。それが失われるなんて、到底想像出来なかった。考えれば考えるほど追い込まれてしまった僕は、まだ歩きだして10kmちょっとなのに、これから30km近く歩かなければならないのに、まして市街地はこれからだというのに、見つけたホームセンターで3本セットのガスを買っていた。

ガスは、1本が300gある。ガスだけでまたも1kg重量が増えてしまった。昨日の米といい、背負う重量を少しでも減らさなければと思っているのに、やっている事がまったく逆だ。ガスの悩みから解放はされたが、ずしりと重くなったバックパックは肩に食い込み、足取りも重くなっていた。トレーニングと言う理由では、もはや説明出来そうにない。僕はやはり馬鹿なのだ。

12時30分。松江の市街地を抜けると、国道は宍道湖沿いをなぞった。朝は無風だったのに、今は風が出てきた。それもかなり強い向かい風だ。湖面は波立ち、兎が跳ねている状態になっていた。

それにしても今日は暑い。一体何度あるのだ?僕の持っている温度計は直射日光を浴びてしまって、32度なんて馬鹿げた数字を表示している。

照りつける太陽はもはや春のそれではなく、吹き付ける風は熱風のように容赦なく僕を襲った。
暑かった。道路脇に設置してある温度計は、無表情に26を表示していた。まさかこんなに暑くなるとは。
「おいおい、まだ3月だぜ?」
独り言のように呟いた僕の言葉は、誰の耳にも届かずに汗と共に蒸発し、空へと消えた。

15時00分。宍道町に入る。空には次第に曇が出てきた。高気圧から外れてしまったようだ。風は一層強まり、それは見えないうねりとなって立ちはだかった。一度突風に吹かれ、かぶっていた帽子を飛ばされてしまった。気を抜いていると大きなバックパックに振られ、幅1mの上を歩けない。

18時00分。今日の目的地、湯の川の道の駅に到着した。向かい風の歩行でかなりの疲労感だった。それでもまだ雨雲は広がっておらず、雨が降りだす前に到着できたのが救いだった。

ここから1kmほど山側に入ると温泉がある。雨に降られるのは嫌だが、汗をかいた体で寝袋に入るのも嫌だった。雨が降らないことを祈り、結局温泉に向かう事にした。
湯の川の温泉でさっぱりと汗を流し、露天風呂に入っていると、雷が鳴りだした。それから雨が降りだすまではあっという間だった。早めに切り上げようとしていたが、一足遅かったか。雨は、強い風と相まってまるで台風のようだ。風呂から上がっても、しばらく様子を見ながら休憩するしかなかった。粘りに粘り、もうすぐ閉館という時間になって、奇跡的に雨がやんでくれた。急いで道の駅へ戻る。おかげで着ていたカッパを濡らさずに済んだ。

21時30分。道の駅に戻ると、見たことのある自転車があった。昨日別れたチャリダーのだとすぐに分かった。まさかこんなにすぐに再開するとは。彼は、出雲大社を観光していてあまり前に進んでいなかったようだ。なるほどやはり彼とは縁があるのかも知れない。

しばらくすると、もうひとり旅人が来た。まだ19才の、若いチャリダーだった。大学の春休みを利用した旅だと言った。休憩所は、突然賑やかになった。

旅人が3人も集まれば、自然と旅話で盛り上がる。あそこが良かった。ここが楽しかった。お互いの情報を交換することは、この先の旅に大変有益だ。僕も、僕の持ちうる情報を提供する事にやぶさかではなかった。

だけど僕はそんな話をしながら、小さな寂しさを感じていた。胸の中に雨雲ができ、それが成長し、心にしっとりと雨を降らせた。

彼らが嬉しそうに話す観光地は、そのどれも訪れた事があった。山陰も、九州も、四国も、北海道も、日本全国。話題に上がったおよそ全ての場所には、行ったことがあった。

僕がまだ学生で、その社会的特権をフルに活用し、バイクであちこちふらふらしていた頃、出会う旅人達は皆、一癖も二癖もある人ばかりだった。皆旅のベテランで、そんな彼、彼女達から聞く話はどれも新鮮で興味深く、冒険心をくすぐるものばかりだった。まだ見ぬ場所に心踊らせ、そんな話をしてくれるベテラン達を羨望の眼差しで見ていたのを覚えている。

僕は、ずっとあの頃のままのはずだった。まだまだ旅の初心者でいるつもりだった。でも、いつの間にかそこには立っていなかった。学生時代に羨望の眼差しで見ていた旅人達と、同じ場所に立っていた。

僕の旅話を聞く彼らの目が、あの頃の僕とだぶって見えた。若い彼らが、もう若くない僕に、その事を教えてくれた。それがきっと世代交代というものなのだろう。

僕は、長い間日本を旅し過ぎたのかも知れない。

今日の歩行距離約42km。

写真1
宍道湖と松江の町並み。湖面に兎が跳ねる。

写真2
若い旅人達。世代交代。

写真3
今日のあり得ない。膨れ上がった荷物は、ついに頭の高さを越すのだった。

6 件のコメント:

  1. >>僕は、長い間日本を旅し過ぎたのかも知れない。

    なるほど、つまり次の目標は『世界』なんですね(爆)!

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  2. もんもん2号2010年3月22日 11:33

    私は、まだまだ、日本を知りたいですね。
    ちょっとした、町外れの風景や町並み、夜景など。
    登山だってそうだし、海岸を歩くのいいかも。

    ぜひ、まだまだ、日本レポート続けてほしいですね。

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  3. フジ山さん

    世界もいいですね~
    自分の目でいろいろ見てみたいですよね!

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  4. もんもん2号さん

    そうですね
    まだまだ日本にも行ってみたい所はたくさんあります


    ただ、僕も年をとったんだなぁというお話です(笑)

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  5. 宍道湖の夕日が堪能できましたか?

    私も日本を全て見てまわったわけじゃないですけど
    やはり海外には文化や習慣、そして宗教の違いからか
    新たな発見がまだまだたくさんある。

    そして帰国すると改めて自分は日本人だなぁと
    安心する。

    最近はこんな感じの旅がお気に入りです(^^)

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  6. マミィさん

    宍道湖きれいでしたねー

    そして海外の異文化は魅力的ですよね。
    刺激受けまくりです。

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